第19話 羽根園家秘伝、ジャンピングローリングサンダー!

「女子卓球部は部員が多くて卓球台が足りないの。あんたたちはロクに練習もしないんだから、必要ないでしょ」

「卓球台なら女卓にはたしか7台くらいあったですよね」

「フン、ウチの部員は46名いるのよ。一台辺り約6.6人の計算だわ。それに比べてアンタたちは全部で何人? とても5人以上いるようには見えないけど」


 式部先生は勝ち誇ったように言う。


「ウチの顧問はなんて言ってるんです」

「林原先生は、アンタたちが使ってないならいいって言ってたわよ。いいわよね。だってアンタたち、全然使ってないんだから」


 さすがの羽根園部長も今度は二の句が告げなかった。


「卓球台だって、こんな汚い部屋でくすぶってるよりは体育館で毎日使ってもらえたほうが嬉しいってもんでしょ。アンタらも真面目に練習する気になったら、体育館に来れば貸してあげるわよ。順番に、だけどね」


 たしかに女子卓球部は人数も多かった。

 練習には活気もあったし、みんな真面目に取り組んでいるように見えた。

 それにくらべて男子卓球部は、先週一回オレと木場先輩が5ゲームマッチをしただけで、その他に練習らしい練習など一分たりともしていない。

 悔しいけど、式部先生の言い分は正しいんだろう。

 限られた資源は、公平かつ効率的に使われるべきだ。――でも


「ちょっと待ってください!」


 オレは気がつくと、式部先生の前に土下座していた。


「たしかに今までは使ってなかったです。でも、これからは違います! オレ、卓球が上手くなりたいんです! だから先輩に教わって練習します、猛練習します! そのためにこの卓球台が必要なんです! 持って行かないでください!」

                


 ただでさえ、卓球をしたがらない先輩たちのことだ。

 台がなくなったら、本当に練習どころじゃなくなってしまうだろう。

 それじゃあ、困る。

 オレはまた卓球がしたいんだ。

 今度こそ、本当に満足するまで。

 だから、わがままでも利己的でも、この卓球台を手放したくなかった。


「お願いします!」


 床に額をこすりつけて頼んだ。


「バ、バカじゃないの? アンタ一人そんなことしたって――」

「自分からも、お願いします」


 えっ? 


 隣を見てビックリした。そこには木場先輩が、スラリとした長身をちぢ込めてオレと同じように土下座していたのだ。


「木場先輩?」「な、何? 木場君まで?」


 オレも式部先生も驚きの声を上げた。


「……まったくおまえら何やってんだよ、カッコ悪い」


 羽根園部長がボソリとつぶやく。

 蔑むような眼差しで、土下座するオレたちを見下していた。


「いいか、これから俺が我が羽根園家に伝わる秘伝ってのを教えてやる」


 なんか、どこかで聞いたことがあるような話だ。

 そう思う間もなく、部長は部室の隅まで下がって助走すると式部先輩の前で飛び込み前転をし、その勢いのまま地面に両手と頭をついて土下座の姿勢になった。


「どうだ! コレが羽根園家秘伝、ジャンピンローリングサンダー土下座だ! カッコいいだろ! 土下座ってのはこうじゃなきゃ!」


 〇〇家秘伝っていうのは、どうしてこう役に立たないものばかりなんだろう。

 どう見ても、お願いしてるというよりバカにしてるようにしか見えないんですけど?

 しかし部長は誰よりも深い土下座をしたまま、動揺する式部先生にこう提案した。


「なあ、俺たちがここまで頼んでるんだ。ここは一つ、勝負しないか?」

「勝負?」

「男子卓球部と女子卓球部で勝負するのさ。俺たちが勝ったら卓球台はこのまま俺たちのものってことで」

「女卓が勝ったら? 卓球台だけじゃウチらにメリットないじゃない。そうね、じゃあアンタたちウチに来てマネージャーやりなさい」


 ってことは、オレたちが負けたら男子卓球部は廃部ってこと? 

 式部先生の提案に、部長は即答した。


「ええ、いいですよ」


 一見むちゃくちゃな条件だが、実を言うとオレはホッと胸をなでおろしていた。

 なんたって、こちらには卓球モンスター木場がいる。

 それにオレだって、女子相手に負けるつもりはなかった。

 ところが――


「じゃあ、勝負の種目はこっちで決めさせてもらうわよ」


 ええっ、卓球じゃないの!?

 驚くオレを尻目に、式部先生はニヤリと笑った。


「そうね、ちょうどここにいいのがあるじゃない。勝負の内容は、ドッチビーよ。女子卓球部対男子卓球部のドッチビー対決」


 それ、大丈夫なのか? 

 いったいどうなるのか見当もつかないんだけど……


「OK。じゃあ、早速はじめよう」


 ふと隣を見ると、羽根園部長は土下座の姿勢のまま式部先生よりもさらに邪悪な笑みを浮かべていた。


「闇のデュエルバトル対戦第二章、スタートだ!」

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