第二章 目指せ、下克上! 対副部長戦!
第8話 幼馴染の秘密
「蓮児さぁ、ホントに卓球部に入ったの?」
「諸事情で仕方なくな」
「女子? 男子?」
「男子に決まってるだろ! なんでオレが女子卓球部に入るんだよ!」
翌日の昼休み。
一人カフェテリアで昼飯を食っていると、小笠原ひいながいかにも忠告してあげると言わんばかりに話しかけてきた。
「やめといた方がいいよ。男子卓球部のウワサ聞いてる? 人数少なくて、もう廃部寸前なんだって」
たしかに、昨日も女装部長とイケメン副部長の二人しか部室に現れなかった。
さすがにそれで全員じゃないだろうけど、部員が大勢いるんならあのオ〇マが部長になれるわけがない。
「まあ、そうらしいな」
オレが肯くと、ひいなは「でしょでしょ」と畳み掛けてくる。
「それになんかすごいビーバップみたいな人もいるんだって」
「ビーバップって、不良とかヤンキーとかってこと?」
「そうそう、トオルとかヒロシみたいな一目でわかる番長だって!」
トオル? ヒロシ? まったく、コイツはいつの時代の女子高生なんだ。
でも昨日部室にいたのは女装趣味の変態で、昭和の不良でも平成のヤンキーでもなかった。
どっちが好ましいかはともかく、一応、否定をしておく。
「それはどうかな? ウワサなんてアテにならないと思うぜ。少なくとも昨日みた限り、そんなワルい感じの人はいなかったし」
「でもでも蓮児言ってたじゃん! もう中学で卓球はおなか一杯だって。卓球部なんかやめてさ、ブラスバンド部に来なよ。男子少ないから歓迎だよ!」
中学のときに吹奏楽部だったひいなは、高校ではブラスバンド部に所属している。
「初心者だって全然OKだよ! アタシがちゃんと手取り足取り教えてあげるし!」
たしかにひいなの言う通り、卓球部をやめて女子に囲まれてブラバンってのも悪くない。だが残念なことに、そう簡単に足抜けできるとは思えなかった。
――あの動画が存在する限り。
「まあ、せっかく入部したばかりだからな。もう少し頑張ってみるよ」
「そう……蓮児のお父さんも心配してたよ。そんな不良のいるような部活に入らせるつもりじゃなかったって」
ふん、まったく勝手なこと言いやがって。
そもそもオレが焦って部活に入ろうとしたのは、親父が家長命令だとかなんとか言い出したからだ。
バカ親父の気まぐれのせいでこっちはいい迷惑だっつうの。
アレ? でもなんで
「じゃあひいな、卓球部のことって親父から聞いたわけ?」
そういえば、卓球部に入ったことは親父に報告した以外まだ友人の誰にも話していなかった。部長が女装してる部活に入ったなんて、知られずにすめばそれに越したことはない。
「あ、うん、今朝お父さんから直接聞いたんだ。最近あたし、お父さんのトコに通ってるの。だから会うとよくお話するんだよ」
親父は皮膚科医で、駅ビルのテナントを借りてクリニックをやっている。
どうやらひいなはそこに通院しているらしい。
医師には守秘義務というのがあるらしく、親父は患者さんのことは一切話してくれなかった。オレの学校のことは根掘り葉掘りきこうとするクセにまったく不公平な話だけど、こればっかりはしかたがない。
「へぇ、そうなんだ? どこか悪いのか?」
ちょっと心配になって聞いてみた。まあ、皮膚科の医者にかかってるんなら大した病気じゃないんだろうけど……
「ええと、その……なんていうか」
ところが、ひいなは急に口ごもって顔を伏せた。
おい、マジかよ。まさか重病じゃないだろうな。
「ホントに
「ううん、そうじゃないの。そんなんじゃないんだけどね」
「ん?」
「……脱毛、してるの。ワキ……」
「……あ、そ」
そういえば、親父のクリニックはそんなこともやってるんだったっけ。
互いに気まずくなって黙り込む。
そこへちょうどひいなのクラスメイトが声をかけてきて、彼女は逃げ出すようにカフェテリアを出ていった。で、去り際に一言、
「ブラスバンド部の話、ホントに考えておいて。絶対悪いようにはしないからさ」
(悪いようにはしないって、詐欺師以外言うヤツいないだろ)
そう思ったけど、憂鬱な気分がいくらか楽になる。
(……でも、ひいなが脱毛かぁ)
幼稚園の頃から知っている小笠原ひいなが脱毛しているという事実に、オレはなんとも落ち着かない気分になった。診察台に寝ころんで腋を出している幼馴染の姿を想像すると、なんだか腹の底をくすぐられるような変な気分だ。
(いったい何を想像してるんだ、オレは)
ブルンブルンと頭を振った。
それよりも今大事なのは卓球部のことだ。
とりあえず動画を削除できるまでは、おとなしく部長のいうことを聞いているしかないだろう。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます