第7話 男子卓球部へようこそ!

「クックックッ、木場おまえ天才だわ。スゲーよ」


 腹を抱えて笑う男装女子を横目に、オレは素早くイケメンの手からタブレットを取り上げた。

 こんなインチキ動画が流出した日にゃボッチ確定。

 例え友達ができたとしても、どんな趣味の友達だか、絶えず後ろに危険を感じながら過ごすハメになってしまう。

 まさに後門の狼ってヤツだ。

 そんな危機を回避するためには、まずこの偽記録を抹消しなきゃ。

 手にしたタブレットを床に叩きつけようと大きく振りかぶった。しかし――


「無駄だ。元データはクラウドで保管してある」


 イケメンが初めて発した言葉がそれだった。オレは、しかたなくタブレットのホコリを払って彼へと返した。


「この動画をどうするつもりなんです」


 その質問には、女装男子が答える。


「怖い顔すんなよ。大丈夫。おまえがウチの部に入部したら何もしない。平和なもんだ。もし入部しなくても……学校中の生徒がこの爆笑動画を見てハッピーになれる。ピース オア ハッピー。つまりどっちに転んでも、全て世は事も無しだ」

「それは、オレ以外の話ですよね!」


 冗談じゃない。こんな動画を見られて、ピースもハッピーもあるわけがない。


「……脅迫するつもりですか?」

「まさか! 俺はオマエの背中を押してあげてるのさ。オマエは親の命令で何かの部に入らなきゃいけないんだろ。ウチの部は部員が少なくって困ってる。ウィンウィンの関係ってやつじゃないか」

「……それは、そうですけど」

「俺はここの部長。二年の羽根園佑斗っていうんだ。こいつは副部長の木場充。まあ、よろしくな。1年A組の三階堂蓮児くん」


 そう名前を呼ばれて、オレは自分がとっくに詰んでいることに気がついた。

 あの動画がある以上、こっちに拒否権は存在しない。


「入部すれば、本当に動画は流出しないんですよね」


 すると今まで黙っていた木場副部長が口を開いた。


「それは、自分が約束する」

「ぐぬぬ」


 彼の約束がどのくらいアテになるかはわからないけど、オカマ部長の約束よりはマシな気がする。オレは全身から力が抜けたように床にしゃがみこんだ。


「わかりました。入部します」


 白旗を揚げるしかなかった。そして気がついた。オレはまだ、彼らがいったい何部なのかすら知らないのだ。ヤケになって聞いた。


「……で、ここは何部なんです? 女装部ですか、盗撮部ですか」


 すると女装部長はカツラをかぶりなおした。


『三階堂クン、心配しないで』


 それから、また筆談を再開する。


『大丈夫だよ。わたしたちのいうことをちゃんと聞いてれば、楽しい高校生活を堪能させてあげるんだから』


 カツラをつけて声さえ出さなければ、どこをどう切りとっても美少女女子高生にしか見えない。そして彼女イコール彼は、御機嫌な様子でキッスを投げてきた。


『あらためて、男子卓球部へようこそ!』


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