第6話 捏造するイケメン

「アンタ、男かよ!」

「別に、俺は一度も自分が女だなんて言ってないぜ」


 表情をひきつらせるオレを見て、目の前の美少女、もとい女装美少年は頭に手をやった。

 長い黒髪が外れて、短髪の茶色い巻き毛が顔を出す。


「まあ、男の娘ってやつ? いま流行ってんだろ」

「違う! 男の娘ってのは喋っても女の子! アンタのはただのオ〇マだ! しかも男の娘の流行りはとっくにピーク過ぎてるし、ってそんなことはどうでもいい! なんだって校内で女装なんかしてるんだ!」

「なぜって、もちろん新入部員の勧誘目的さ。女っ気があった方が人気がでるだろ」

「女っ気って、そんなニセモンで人気なんかでるかよ」

「でも、新入部員を一人ゲットしたぜ」


 そう言って女装男子はニヤリと笑った。

 嫌な予感に背筋が寒くなる。


「もしかしてオレのことか? 無理無理、ゼッタイ無理。だいたいアンタが何部なのかも知らないんだから入部なんかするわけないだろ! これは返すよ!」


 あわてて入部届をつき返そうとしたそのときだった。

 突然ドアが開いて、長身の男子生徒が入ってくる。その手には、A4サイズのタブレットPCが握られていた。

 女装男子が長身男子めがけてウィンクする。


「オウ、木場、もう出来たか。相変わらず仕事が速いな」


 木場――その名前には聞き覚えがあった。

 ちょっと前にひいなが言ってたことだ。

 二年生にまるで沖雅也のようなハンサムがいる。そのハンサムは背が高くて運動神経抜群でしかも成績が学年ダントツ一位なんだと。

 沖雅也ってのが誰かは知らない。

 たぶん、アイツの好きな昭和のイケメンなんだろう。

 その沖雅也似の上級生は、無言でオレの目の前にタブレットと人差し指を突き出した。


「な、なんですか?」


 人差し指を液晶の上でスッとスライドさせる。

 軽快な音楽が鳴り、タブレット上に動画が再生された。

 そこには、ひとりの男子生徒が映っている。顔に黒い目線が入っているが、きっと誰が見てもわかるだろう。

 映っているのはオレ本人だ。


「これは、オレ?」


 イケメンは無言で頷く。

 画面を良く見ると、背景はどうやらこの部屋らしい。ってことは、ここに来てからの様子を盗撮されていたのか?


「この熊ちゃんにカメラが隠してあったんだ」


 オレの心を読んだかのように、女装男子が熊のぬいぐるみを抱いて得意げに微笑んだ。

 声を聞かなきゃとても男子とは思えない美少女の微笑だが、今となっては殺意しか湧いてこない。


「これがどうしたって言うんです。いいかげんにっ」


 続く言葉を、画面の中のオレが遮った。

 画面上のテロップに俺が答えるという、よくあるインタビュー動画のようだ。


テロップ『高校生になったら、彼女が欲しいですか?』


オレ「別に女子にはモテなくてもいいですよ。正直自分、女に興味がないっていうか、彼女欲しいとかあんまり思わないですから」


テロップ『へえ? じゃあ、キミは男性が好きな人?』


オレ「そういうとオーバーですけど、男同士でつるんでる方が楽ですよね」


テロップ『でも、いくらなんでもガチホモってわけじゃないんでしょ?』


オレ「そんなことないですよ。中学のときはメチャクチャハードにやってましたし。見た目より持久力も瞬発力も必要ですから、先輩にずいぶん鍛えられました」


テロップ『じゃあ、先輩が攻めで後輩のキミが受けだったんですか?』


オレ「ええ、先輩後輩の関係が絶対で先輩たちには逆らえなかったですし、でもその分後輩たちには優しくしてあげたんですよ」


テロップ『先輩たちってことは複数プレイですね。お尻の方は大丈夫なんですか?』


オレ「いや最初はキツかったですけど、慣れるとむしろ心地よいってモンですよ」


テロップ『まさか、高校生になっても男の道を突っ走る?』


オレ「……それは、まあ、別に嫌いになったわけじゃないですし」


 動画はここで終わった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る