第15話 伏字に意味はあるのか?
何十年も前からある、この界隈に住む卓球少年御用達のスポーツセンターは、一階がボーリング場、二階が卓球とビリヤードのコーナーになっている。
最近、近くに大手の同じような施設が出来たこともあって日曜日でもここは閑古鳥が鳴いている……はずだった。
「緑子、いくよ!」
「桜お姉ちゃん、ちょっと待ってよぉ!」
ところが、二階から甲高い子供たちの声が響いてくる。
小学生くらいの女の子だろうか?
妹と同じ年頃、オレがもっとも苦手な人種だ。
「お姉ちゃん、本気出しちゃヤダ」
「本気じゃないもん。まだ、あと2回変身残してるもん」
「お兄ちゃん、桜お姉ちゃんがいじわるする」
「おいおい、桜子、妹には優しくするんだぞ」
(アレ?)
二階から漏れてくる男性の声に、どこか聞き覚えがあった。
「へぇー、ここに子供が来るなんて珍しいねえ。台がいっぱいじゃないといいけど」
そう言って階段を上ろうとするひいなの手首を、オレはグイと引っ張った。
「ちょ、ちょっとヤダ、蓮児」
驚いて頬を染める彼女の口を手で押さえる。
そのまま息を殺して、二階の様子をうかがった。
そこにいたのは、小学生くらいの三人の女の子と背は低いけど保護者らしい若い男だ。
女の子たちも可愛い顔立ちをしているけれど、とくに男の方は、芸能人で言えばラ〇ルアンシエルのハ〇ドに似ている。
この辺ではちょっと見かけないほどのイケメンだった。
(……間違いない)
思わず息を飲んだ。
あのイケメンは、男の姿をした羽根園部長だ。
(なんで部長がこんなところに? それになんで小学生女子と一緒? ロリコンなのは木場先輩のほうじゃなかったっけ? しかも、なんで男装?……って、それはいいのか)
羽根園部長は小学生の女の子たち相手に卓球をしに来ているようだった。
女の子たちの年齢はバラバラで、口ぶりからしてもどうや姉妹らしい。ってことは、部長の妹さんたちなんだろうか?
一番年上の女の子は小学五年生か六年生くらい。
その年頃にしては上手いようで、慣れた手つきでラケットを扱っている。
「じゃあ、今度は佑斗お兄ちゃんが相手ね」
(おっ、これはもしかして、部長の卓球するところが見られるかもしれないぞ)
オレは息を潜めて二階の様子をうかがった。
これまで部長がラケットを持ったところは一度も見たことがない。けれど、副部長の木場先輩からしてあの実力だ。部長となると一体どれほどの腕前なのか。
固唾を飲んで見守った。
女の子が、軽快にサーブを打つ。
部長がリターン、と思いきや、そのラケットは空を切った。
「1対0ね」
妹相手に手加減してるのだろう。
最初はそう思ったけれど、次のサーブも部長のラケットは球から数十センチ離れた空中を横切っていた。
「やっぱ、お兄ちゃん相手じゃ勝負になんないよぉ」
「そう言うなって、お兄ちゃんこれでも卓球部の部長なんだぞ」
「絶対嘘だね。こんなヘタクソが部長だなんておかしいよ」
(もしかして……部長って、ホントにヘタクソなのか?)
突然、右手の指に激痛が走った。
「痛ぇえ!」
慌てて手を見ると、ひいながオレの右手に噛み付き攻撃を加えていた。
「何すんだ!」
「それはこっちのセリフよ! 窒息するかと思ったじゃない!」
どうやら驚きのあまり、彼女の口と一緒に鼻も塞いでしまったらしい。
「あ、ゴメン」
「ゴメンじゃないわよ!」
すると、二階から女の子たちの声が聞こえてきた。
「なんか騒いでる人がいるぅ! ケンカかなぁ?」
どうやらオレたちの声が聞こえたらしい。
「アタシ見て来るぅ!」
「アタシも行くぅ!」
「おい、こら、やめなさい!」
(マズイ! 部長にみつかる!)
ここに自主練にきたのは先輩たちには内緒だった。
いやそれ自体はそんなに隠すようなことじゃないんだけど、小学生に完全に見下されている部長のヘタクソっぷりを見たことは悟られちゃマズいような気がした。
(ひいな、ごめん!)
オレは、二階に背を向けてひいなを抱きしめた。
「ケンカじゃなかったぁ!」
「ひゅーひゅーだったぁ!」
「アチチだったぁ」
小学生達の冷やかす声が背後に響く。
「シィーッ! おまえらホントにやめろ! こっち来い!」
羽根園部長に叱られたせいか、それとも単に飽きたのか、彼女たちは二階に戻っていく。
どうやら、ばれずにすんだらしい。
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