第29話 今明かされる、女装のワケ
「キャアアア! な、何するのよ、ヘンタイ!」
「……えっ?」
オレはまったく状況を把握できずに、手にしたスカートと目の前でしゃがみこむ部長を交互に見比べた。
気がつくと、部室の隅で木場先輩が頭を振っている。
続けて、部室のドアが開いた。
「おい、なんかさっき悲鳴が聞こえたけど、ウチか?」
振り向くとそこには、珍しく男子の制服を着た部長の姿があった。
「ええと、部長!?……ってことは、つまり……」
次の瞬間、パシンという音と共に左の頬に焼けるような痛みが走る。
それが下半身丸出し美少女の平手打ちだと気づくまでしばらくかかった。
「もぉ、キミ最低!!」
そう叫んだ美少女はオレの手からスカートを奪い取ると、脱兎のごとき勢いで部室を飛び出していく。
「な、なんなんだ?」
呆然とするオレに向かって、男装部長が気まずそうに頭を掻いた。
「そういや、三階堂にはまだ言ってなかったよな。さっきのは羽根園ユウキ、オレの双子の片割れなんだ」
「聞いてないですよ。じゃあ、アレは部長のお姉さん? 妹さん?」
「俺が上に決まってるだろ。この俺様が誰かの下になるとかありえない」
要領を得ない部長に代わって、木場先輩が補足してくれた。
「実は、ユウキちゃんは卓球部の部員として登録してあるんだ。本人は全然やる気がないから完全な幽霊部員なんだけどね。ユウトが女装してたのは、ユウキちゃんが幽霊部員だってバレないよう一人二役をするためでもあったんだ」
そうか、女子生徒でもマネージャーとかなら男子卓球部に入ることができるんだ。オレたちも式部先生に女子卓球部に入れられそうになったもんな。
うー、しかし部長の女装にそんな裏事情があったとは……
「で、昨日おまえと約束して女装をやめることにしただろ。だから時々はユウキちゃんにも部室に顔を出してくれって頼むつもりだったんだが……こりゃ、ダメかな」
そう言って木場先輩は肩をすくめた。
たしかに、ユウキ先輩はもう来てくれないだろう。
てゆうかそれ以前に、いくら部長と間違えたとはいえいきなり女子のスカートを剥ぎ取るなんて、まるっきし痴漢というか婦女暴行というか、警察に突き出されても文句は言えない行為じゃないか!?
(オレは……なんちゅう取り返しのつかないことをしてしまったんだ)
あんな可愛い美少女……オレの理想の集大成が、やっとホンモノの女の子としてこの世に顕現してくれたというのに。
「す、すみません! せっかく先輩たちが卓球部のために動いてくれたのに台無しにしてしまって、オレ、とにかく追いかけて謝ってきます!」
先輩たちに頭を下げると、オレは部室から飛び出した。
背後から部長の叫ぶ声がする。
「ユウキは、イヤなことがあると体育館裏の林にいるぞ!」
オレは、部長の教えてくれた体育館裏に向かった。
そこには桂光学園ができる以前からこの辺一帯に広がっていた杉林の一部が残っていて、春には凶悪な花粉を撒き散らし、学生たちの怨嗟の的になっている。
そのせいで普段滅多に人が立ち入らない場所だった。
かくいうオレも、入学して三ヶ月、この林の中へ入ったことはない。
人影の無い林道を、彼女を探しながら進んだ。
初夏の日差しが木々にさえぎられて、そこかしこに穏やかな陽だまりを作っている。
こんなよさげな場所が学園の敷地内にあるなんて……
たしかに落ち込んだときにはよさげな癒し系スポットだ。
(ん?)
しばらく行くと、杉の木が伐採されて開けたスペースがあった。そこに杉林とは不似合いな白いテーブルとベンチが置かれている。
そのベンチの上に、ユウキ先輩はいた。
黒髪に、白い肌。澄んだ瞳。赤い唇。
あまりの美少女ぶりに、おもわず息が詰まる。
「あっ!」
彼女はオレに気がつくと怯えた表情で立ち上がった。
(マズい! 逃げられる!)
オレは、本能のままに彼女に飛びかかった――わけではなく、そのまま飛び込み前転をして地面にはいつくばった。
前に部長が教えてくれた羽根園家秘伝、ジャンピング・ローリング・サンダー土下座だ。
「ごめんなさい! どうか許してください!」
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