第五章 やがて悲しき異能力…… 対イケメン部長戦!
第24話 鮭のことをシャケって言う子、いいよね
「いやぁ、卓球台を持っていかれなくてホントに良かったですね!」
女子卓球部との死闘(?)から数日後。
オレは、部室の卓球台に頬擦りしながらそう言った。
二人の先輩はほぼ無視である。
木場先輩は内職のアルバイトにかかりきりだったし、羽根園先輩にいたっては身につけたセーラー服のリボンの長さを巡って、あーでもない、こーでもないと四苦八苦している。
しかし、オレは知っていた。
羽根園部長と木場先輩が、だれよりも男子卓球部に愛着を持っていることを。
そうでなければ、あの女信長に逆らって卓球台争奪戦を繰り広げるなんてできるはずがない。
(つまり、あとはオレ次第。オレが積極的に卓球に対する熱意を表明して、シャイな先輩たちに卓球愛を表に出すのは恥ずかしいことじゃないと教えてあげればいいんだ。そうすれば、きっと先輩たちも卓球ラブを素直に表現してくれて、練習にも取り組んでくれる。部長はともかく、木場先輩はあの実力だ。ちょっと本気になれば大会でも好成績を収めることは間違いない。そうすれば部員だって山ほど増えて、卓球部の再興に繋がって行くはずだ。問題は女性アレルギーの木場先輩をどうやって大会に出場させるかだけど……これはやっぱり羽根園部長から説得してもらうしかない。木場先輩はどういうわけか、部長には頭が上がらないからな。ってことは、まずあの部長をこっちに取り込まなきゃいけないわけか。部長本体はとうてい役に立つとは思えないけど、ひねくれ者の割りに単純なトコがあるから操縦は簡単だしな)
我らが男卓の輝かしい未来に思いをはせていると、部長がぼそっとつぶやいた。
「三階堂、おまえ、時々マジでウザいよな」
「えっ?」
「頭で考えたことが、全部ひとり言になって漏れてきてるぞ。モノローグとセリフがごっちゃになるなんて定番のボケをかましやがって。あ、てめえまさか、新しい主人公アピールじゃないだろうな」
「ははは、オレ、どんなこと言ってました?」
焦るオレに、羽根園部長が不満げな表情で接近してくる。
頬を膨らませて腰に手を当てたその姿は、まさにライトノベルの表紙を飾るメインヒロイン級の美少女。しかしその正体は、運動神経皆無の男子高校生だ。
「部長本体はとうてい役に立つとは思えない、とかなんとか言ってたっけ。ありゃ一体、どういう意味だ?」
その白くてか細い喉からは発せられるのは、ビブラートの効いた男の声だった。
なんというガッカリ感だろう。
自分で言うのもなんだけど、オレはかなりの草食系だ。
彼女いない暦イコール年齢だし、そもそも彼女を欲しいと思ったことがない。
好みの女子のタイプは小学生の頃から「鮭のことをシャケっていう子」で、同級生からは天然記念物扱いされていた。そんなオレでさえ、セーラー服美少女が奏でる低音にはガッカリせざるを得ない。
次いで、(おいおい、いったい何を期待してたんだよ、オレ)と自分を戒める気持ちになり、とうとう最後には目の前にいる得体の知れない生物に対して(女装するなら声までしっかり作れよ、このハンパもんが!)と、イラだちを隠せなくなる。
それで、ついポロリと本音が漏れた。
「……だって部長、ヘタクソじゃないですか」
言ってから、(しまった!)と反省した。
「な、なぁにぃ!」
オレが部長の卓球している姿を見たのはまったくの偶然で、しかも彼はそれに気が付いていなかった。つまり部長は、自分の卓球下手がバレてないと思っているはずなんだ。
「な、なんでオマエそれを」
気がつくと、部長の表情が美少女の微笑から憤怒の形相に変わっていた。
「い、いや、その、別に見たわけじゃないですけど……日頃の振る舞い、立ち姿とかから想像してですね」
「日頃の振る舞い? 立ち姿? それでオマエ、ヘタクソとかわかるのかよ!」
やばい、完全に怒らせたみたいだ。
すると、木場先輩が横から口を挟んだ。
「ヘタクソって、三階堂、おまえ何の話をしてるんだ?」
「何って、卓球ですけど」
「たぁっきゅう! 卓球って……なんだ、卓球か、びっくりさせんなよ、もう!」
部長は、空気が抜けた風船のようにその場にしゃがみこんだ。
「えっ? 部長、なんのことだと思ってたんですか?」
「こいつなあ、こないだ三年の城崎先輩に思いっきりヘタクソって言われてフラれたんだよな」
「うるさい! 黙れ!」
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