第38話 ロリコン卓球強者とJKママ

 周囲の白い視線の中、木場先輩が口を開く。


「あのなあ、高橋……ええと、そのだな、」


 はっきりしない先輩の後を羽根園部長が継ぐ。


「口下手な木場の代わりに俺が説明してやるよ。あのなあ、高橋。夢ってのはなあ、いつまでも見続けちゃいられない。いつか終わりが来るんだよ。夢が終わったとき負け犬になりたくなきゃ、どうする?」

「……どうするって」

「次の夢に向って、全力で突っ走るしかないだろう」


 なんだか知らないけど、オレは少し感動していた。

 たしかに今は卓球部に打ち込んでいるけど、大抵の人間はそれで食べていけるわけじゃない。

 そうか、木場先輩は卓球の次の夢に向かって頑張っているのか。

 オレもいつかは、全力で突っ走れる次の夢を探さなきゃいけないんだろうな。


「……じゃあ、木場先輩は今度は何の夢に向かってるんです?」

「おう、よく聞けよ。木場は卓球少女合宿をあきらめた代わりに、今度は小児科医になって全国から難病の少女だけを集めたハーレム病院を設立するという目標に向けてがんばってるんだ!」


 台無しだっ! 

 なんかすごくいい話でまとまりそうだったのに!


「せ、先輩……そうだったんですか……俺、全然知らなくて……許してください、やっぱ先輩は、俺の憧れの先輩です!」


 そこで和解するか、普通っ!

 高橋秀樹は泣きながら木場先輩に抱きつき、先輩は後輩をなだめるかのように優しくその頭を撫で付ける。

 ちょっとみると心温まる感動の場面だが……周囲はもう、ドン引きもドン引きだった。


「あ、あの、高橋君、俺たちちょっと用事があるからもう帰るわ」


 取り巻きのヤンキーたちはすごすごといなくなった。

 そして、千尋も。


「と、年増って……千尋、まだ小5なのにぃ」


 それから劇的な和解を遂げた木場先輩と高橋秀樹は、再び高校卓球の舞台で再会することを誓い合って別れた。

 ひいなの件は進展しなかったけど、卓球部として「打倒、高橋秀樹」という目標が生まれたことは大きな進歩だ。

 これで、あとは部員を集めるだけ。

 部存続の五人まで、あと二人。卓球の試合は四人一チームだから、試合をするだけならあと一人いればなんとかなる。

 よし、頑張るぞ!


 *          *          *


 その夜のことだった。

 玄関の開く音と共に、甲高い声がした。


「蓮児クン、ただいまぁ! ママ今帰ったわよぉ!」


 お洒落なワンピースに身を包んだひいなが上機嫌で家に入ってきた。 

 時計を見るともうすぐ十時近い。


「ひいな、オマエこんな遅くに何しにきたんだよ」

「フフン、今日はタカアキさんとデートだったのだ」

「オヤジと? マジかよ」

「すごかったよぉ、高級レストランでミルフィーユ食べたの」

「ミルフィーユ? って、ケーキの?」

「チッチッチッ、お肉よ、お肉のミルフィーユ。牛肉の上にフォアグラが乗っててね。その上に何が乗ってたと思う?」

「知らんわ、豚肉でも乗ってたのかよ」

「ブブーッ、ハイ消えたぁー! 答えはなんとウニでした。おいしかったぁ。おみやげにプリン買って来てあげたから食べて。ミルフィーユじゃなくて残念だけど、ウフフフ、じゃああたし紅茶入れてくるね」

「おまえ、まさか酔っ払ってんのか?」


 すると、キッチンへ向かうひいなと入れ替わりに玄関から親父が現れた。


「そんなわけないだろ。高校生に酒なんか飲ませたらオレが逮捕されちまう」

「こんな夜中に女子高生連れまわして、そんだけで逮捕だっつうの」

「いや、家まで送ろうとしたんだけどな。ひいなちゃんがおまえにお土産渡すって聞かなくてさ」

「そ、そうなのか……って、それはともかくまさか本気じゃないよな」


 ここであったが百年目だ。親父にどういうつもりなのか、しっかり聞いておかないと。

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