第37話 卓球強者には共通項があるという誹謗中傷

 険悪な二人の様子に、高橋英樹の取り巻きたちも乗っかってきた。


「高橋くん、こいつら知り合い?」

「にしてはチョー生意気じゃん」


 この二人は、どうみてもただのヤンキーでスポーツマンにはみえない。

 大丈夫なのか? 

 オリンピック候補生がこんな奴らとつるんでて? 

 別の意味で心配になってきたぞ!


「木場充と羽根園佑斗といってな、中学の頃の卓球クラブの先輩さ。まあ、もう今は卓球やってないみたいだけど」

「へぇ、じゃあアレか。高橋君のあまりの才能に夢をあきらめたって負け犬クンか」

「なに? じゃーバリバリジェラシーが渦巻いてるわけ!?」


 ヤンキーたちの言葉がオレの胸に刺さる。

 さらにヤンキー二人は、オレたちを小突き回しはじめた。


「日本のヒーローの高橋くんをバカにされちゃあ。黙っていられねえなあ」

「どうする? やっちゃう?」


(こうなったら多少の荒事はしかたがないか)


 オレはそう腹をくくった。

 まあこれだけ人がいる場所だし、連中もあんまり無茶はしないだろう。


「やめとけよ」


 そのときだった。

 ヤンキー二人を高橋英樹が制した。


「オレが喧嘩したら、スポーツ新聞に載っちゃうだろ」


 どうやら、オリンピック候補として最低限の自覚はあるらしい。


「さすが、高橋くん、かっけえ」

「だとよ、てめーら、よかったな」


 ヤンキーたちはお決まりの捨て台詞とともにこの場を立ち去ろうとした。

 もともとオレは喧嘩なんかしたことない人間だし、とにかく千尋を危ない目に合わせずにすんでよかったと胸を撫で下ろす。

 ――ところが、


「お兄ちゃんは、負け犬なんかじゃないもん!」


 突然、千尋がヤンキーたちに食ってかかった。

 どうやら、オレをバカにされたのが悔しかったらしい。うっすらと目に涙が浮かんでいる。


「な、なんだ、コイツ?」

「お兄ちゃんはスッゴク卓球上手なんだもん。桃太郎なんかに負けないもん!」

「今、おまえのアニキの話はしてないっつうの」

「羽根園お兄ちゃんも、木場お兄ちゃんも一緒だもん。お兄ちゃんのお友だちは、みんな千尋のお兄ちゃんだもん!」


 千尋は顔を真っ赤にして叫ぶ。

 あわててなだめようとしたが、そんな彼女をけしかけるような声が飛んだ。


「そうだ! 千尋ちゃんの言う通りだ! お兄ちゃんたちはみんなメチャクチャ卓球が上手なのだ!」


 もちろん、羽根園部長だ。

 いや、あんた一人はメチャクチャヘタクソだから!

 すると、一度は矛を収めていた高橋英樹が血相を変えて木場先輩の前に歩み寄ってきた。


「木場先輩、アンタ、どこまで俺をガッカリさせるんだ」

「!?」


 そう言えば、彼は中学時代に木場先輩と試合をして一回も勝てなかったって話だったっけ。

 どうやら、木場先輩とこのオリンピック候補には浅からぬ因縁があるらしい。


「こんな巨乳の年増女にお兄ちゃん呼ばわりされて鼻の下伸ばしやがって。アンタの夢はどこへいったんだ。中学のときのアンタは夢に向ってイキイキしてたじゃないか!」


 熱いセリフを吐きながら高橋秀樹は木場先輩に掴みかからんばかりだ。

 でも、木場先輩の夢って……なんだか、嫌な予感がするんですけど……


「忘れたとは言わせねえぞ! あの地獄の合宿所で誓ったじゃないか! 将来オリンピックに出て金メダル獲って、全国から卓球少女を集めてハーレム合宿をするって。オレはそんなアンタに憧れて、こうして頑張ってきたってのに!」

「ええっー!?」


 オレも千尋もヤンキーたちも、その場に居合わせた人間はみな、目が点になっていた。


「卓球少女を集めてハーレム合宿って……高橋くん?」


 そりゃあ、木場先輩の夢がハーレム合宿ってのはオレにも想像がつく話だった。

 でも、そんな木場先輩に憧れてたってことは……高橋秀樹もロリコン?

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