第10話 闇のデュエルバトル対戦、開幕!

「今度の文化祭で、我が男卓はバンドをやることに決定しました!」


 やっぱり、そんな話か。

 なんとなくこの人の思考パターンが読めてきたぞ。

 オレが黙っていると、部長は得意気にエヘンと胸を張った。

 さっきからチョクチョクとっているこのポーズは、どうやら彼(彼女)の決めポーズらしい。

 俄然目の前の偽美少女に必殺技コンボを叩き込んでオーバーキルしたくなった。


「ほら最近、バンドやるアニメとかゲームとか流行ってるだろ。だから、文化祭で俺たちでバンドやって女子にキャーキャー言われたら、自分もモテたいってヤツラがわんさか入部してくるんじゃねぇ?」


 うーん、どうやら部長の流行のアンテナは微妙にズレているらしい。まあ、完全に昭和にタイムスリップしてるひいなよりはマシだけど。


「んなワケないでしょ。バンドやりたいヤツは、卓球部じゃなくて軽音部に入るでしょうよ」

「ウチの高校、軽音部ないもん」

「だからって卓球ヤル気のないヤツを入れてどうするんですか。ここは、卓球部ですよね」


 オレが食い下がると、部長はみるみる不機嫌な表情になりキレ気味に叫んだ。


「何だよオマエ、卓球卓球って。オマエは卓球村の住人か!」


 あまりにも幼稚な反論に、オレもつい売り言葉に買い言葉になってしまう。


「アンタこそ、卓球が嫌なら卓球部なんかやめりゃいいじゃないですか!」


 言ってから、ふと思った。

 オレはもともと高校では卓球をやらないつもりだったんだ。

 だから部員にどんなヤツが入ってもいいはずなのに、なんでこんなにムキになってるんだろう。

 あわてて頭を下げた。


「あ、いや、すみません。失礼な口の利き方して」

「フン、まったくだ。だいたい三階堂は昨日も先輩かつ部長の俺様相手にずっとタメ口きいてただろう」


 あらかじめ想像はしていたのだが、羽根園部長は後輩の暴言をさっぱり水に流すという男らしい性格ではないらしい。

 まあ、この人に男らしさを求めるの自体が無理な話か……


「フン、だいたい、最初に『もう卓球はやらない』って言ってたのは三階堂のほうなんだぞ!」

「……それはそうですけど、でも、あんまり不真面目なのは良くないかなって」


 すると、部長の大きな瞳がキラリと光った。

 もう嫌な予感しかしない。


「ははん、わかったぞ。おまえさ、卓球は飽きたとかもう十分とか言って、実は卓球をやめたのには何か別の理由があるんだろう」

「いや、そんな理由なんてないですよ」

「三階堂蓮児、じつはおまえはまだまだ卓球に未練がある。心の奥底では卓球をしたくてしたくてたまらないんだ。でも、なんらかの事情でその深層心理には堅い封印が施されている。どうやら、そこにオマエの心の闇が隠れているようだな」

「心の闇って……オレにそんな裏設定とかないですから」

「その闇、覗かせてもらおう! 我が輩にとって心の闇とは甘露にも勝る最上のグルメなり!」

「今度は、どんな厨二病設定なんですか。ちょっと木場先輩、なんとかしてください……って、先輩何やってるんですか!」


 木場充副部長に助け舟を求める。

 しかし、長身のイケメンはいつのまにか部室の机に座って一人勉強を始めていた。

 オレの声を聞いても一瞬わずらわしそうに顔を上げただけで、また参考書に没頭する。


「木場に助けを求めても無駄だ。本来コイツは学業を何より優先せねばならぬところを、俺が無理矢理に時給五百円で召還している召還獣なのだ。したがって部活中は俺の言うことしか聞かん」

「うわぁー、なんか嫌なこと聞いちゃったよ! ってことは男子卓球部って実質部員二人じゃないですか!」

「とにかくオマエの心の闇を見定めるため、これから闇のデュエルバトル対戦を開始する!」

「デュエルバトル対戦……なんかすっごく無駄の多い単語がでてきたぞ」

「本来、闇のデュエルバトル対戦とは互いの全能力を駆使した戦いをいうが、今日は卓球村人のお前が有利なようにごく普通に卓球で勝負してやろう。今から五ゲームマッチを行って、オマエが勝ったらなんでもオマエのいう事を聞くし、オマエが負けたら大人しく俺の言うことを聞いてもらう。どうだ?」


 そう言って、部長はまたも胸をそらした決めポーズを取った.。

 よくみると目の前の偽美少女は腕も足も細く、身長もオレより10センチは低い。とても運動ができるキャラだとは思えなかった。


「……どうせ、他に選択肢はないんでしょ」


 しぶしぶといった表情をみせながら、オレは内心ほくそえんでいた。


(フフフ、こんなにも早くチャンスが訪れようとは!)


 正直、桂光学園レベルの卓球部にオレにかなう相手がいるとは思えない。

 つまりオレがこの勝負に勝つのは確実なのだ。

 ってことは、これからはなんでも部長に言うことを聞かせられる。

 いや、そんな必要すらなかった。

 とりあえず例の動画さえ消去させれば、あとは退部届けを叩きつけてひいなとブラブラバンバンだ。


「その代わり、オレが勝ったらちゃんと言う事聞いてくださいよ」

「フフフ、いい度胸だ。召還獣木場よ、卓球台をセットせよ!」

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