第35話 母の後悔
* * *
千尋たちの姿が消えたのを確認して、母親に話しかけた。
「ええと、母さん、今日話したいのはさ」
「わかってるわよ。ひいなちゃんのことでしょ。あ、コレ、お願いね」
ビーチチェアーに寝そべりながら、サンオイルを放り投げてくる。
「最近日焼けするとなかなか色が戻らないんだもの」
そのままうつぶせになって、ビキニの紐をはずした。
どうやら、オレにコレを塗れということらしい。母親の背中にオイルを塗るなんて罰ゲームも甚だしいが、これから相談をする手前、しかたなく言うことを聞いて塗りたくった。
「おー、いい女いるなあ、でも一緒にいる男、若すぎじゃねえ?」
「弟とかじゃねえの? それとも若いツバメとか? いーなー変わりてぇ!」
そばを通る男どもが、うらやましげな視線とともにヒソヒソ話してるのが聞こえる。
バーカ、何が羨ましいもんか。コイツは来年40だぞ。ってゆうか、それ以前に母親だぞ。
「知ってるんなら話が早い。親父のヤツ、本気じゃないとは思うんだけどさ。母さんからバカなことはやめろって釘刺してもらえないかな」
すると彼女は、伸びをしながら背中を反らした。
「うーん、それはどうかなあ」
「なんでだよ。母さんだってひいなのことは可愛がってたじゃないか。それが万が一にもあんなおっさんと結婚していいわけないだろ」
「まあ、私はそのおっさんと結婚してたんだけどねえ」
「あ、ごめん」
「まあ、その間違いに気がついて離婚したからいいんだけど。でもね、私にはタカアキの気持ちもわからないでもないのよ」
タカアキってのは親父のことだ。
「なんでだよ」
「三年前に私とタカアキは離婚したわけだけどさ。それはもうさんざん話し合って、私たちだけじゃなくてアンタと千尋にも一番良いことだと思ってそうしたわけ」
「うん、」
「でもね。ウチら家族にとっては最良の決断だったけど、あの子にとってはそうじゃなかったんじゃない? ひいなちゃんはあの頃アンタとそれこそいっつも一緒だったでしょ。私たちの離婚で一番損をしたのはひいなちゃんだと思ってるの」
それから母親はトップレスのまま起き上がった。
「だからタカヒロも、ひいなちゃんに頼まれるとイヤとは言えないんじゃないかな」
「何やってんだ、隠せよ」
あわててバスタオルで胸を隠す。
でも、ホントにあの親父がそこまで考えてるんだろうか。単に女子高生と結婚できてラッキーくらいに思ってるんじゃないのか。
「だから心配することないわよ。それより、肝心なのはアンタの気持ちでしょ」
「なんでオレの気持ちが肝心なんだよ。いま、それは関係ないだろ」
「アンタそれ、本気で言ってんの?」
「ああ、まあ、本気だけど」
「うそぉ、もうヤダ、何この育成失敗感」
母親は大げさに天を仰ぐと、ビーチチェアに寝転がった。
「ホントがっかり、やっぱりアンタはタカアキ似よね」
「なんだよそれ、ちゃんとわかるように話せよ。どうしてそこでそうなるんだよ」
「もう寝た寝た。聞ーこーえーなーい」
それ以上何を言っても返事もしてくれない。どうやら母親から親父を説教してもらう作戦は失敗してしまったようだ。
うなだれていると携帯がブルった。部長からのメールだった。
『ウォータースライダーの下まで、急いで来い!』
* * *
行ってみると、不満げな顔をした羽根園部長と木場先輩が待ち構えていた。見回すと、千尋の姿がない。
「千尋ちゃん、今トイレに行ってるんだけどさあ」
オレを見つけるなり、部長はブーブー文句を言い始める。
「アレなんとかしろよ」
「アレって?」
「オマエの妹だよ。もう目立っちゃってさ。周囲のヤローどもの目を釘付けなんだもん」
「そうですか?」
(フフフ、さすが我が妹。あんな美少女はそうそういないもんな)
誇らしさのあまり、つい半笑いになったらしい。
羽根園部長の機嫌がさらに悪くなった。
「そうですかじゃないよ。ほら、彼女、小学生だからだろうけど無駄に元気一杯じゃん。何かって言うとぴょんぴょん飛び跳ねるんだよな。でも、あの子の胸は絶対小学生じゃないだろ。もう揺れて揺れて今にもビキニからこぼれそうになるのよ」
「はあ」
「周りのヤツラはヤらしい目で見てるのに、俺は小学生って知ってるから罪悪感で全然楽しめないんだもんよぉ」
隣にいる木場先輩もご機嫌斜めだった。
「そうだぞ。せっかく小五女子とプールで遊べると思ったら、なんだあの発育は。あんなの小五じゃない。ガッカリにもほどがある」
まあそれに関しては、
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