第34話 この妹、ロリか、ロリならざるか、
「いやいや、ユウキ先輩が来たってサービスカットにはならないでしょ」
「そうでもないぞ。あいつ普通にビキニとか着るし。おまえだって見たろ、あいつのスカートの中」
たしかにユウキさんのパンツは女物の布地の小さなヤツだった。
あの日はあまりに強烈な出来事がありすぎて記憶が曖昧になっているんだけど、乙女の秘密とか、ガムテープとかっていう不穏な単語が頭に浮かんでは消えていく。
「あいつ、けっこう三階堂のこと気に入ってるみたいだったぞ。おまえが頼めば正式に卓球部に入部してくれるかもな」
オレはあわてて首を振った。
「勘弁して下さいよ。そりゃ部員増やしたいのはわかりますけど、ユウキ先輩が入ったら男の娘が二人になっちゃうじゃないですか。四人の部員のうち二人が女装って、オ〇マ率高過ぎでしょ」
「三階堂、いい加減にしろよ!」
思わずビクリとした。みると、部長が険しい顔つきでこっちをにらんでいる。
そうだった。
理由があって女装している部長はともかく、ユウキ先輩は性同一性障害。
つまり体は男でも、あくまで心は女の子なんだ。
病気でつらい思いをしているだろうユウキ先輩に向かって、オ〇マなんて汚い言葉は使うべきじゃなかった。
「これは卓球部の部長というより、ユウキの兄として言わせてもらう」
「……はい」
「ユウキのことはどう悪く言ってもいい。ただ、俺のことだけはどんな些細な悪口だって許さんぞ。俺は褒められて伸びるタイプなんだ」
……さすが部長。今日も安定のクズっぷりだ。
* * *
「お兄ちゃん!」
「レンジ!」
懐かしい声が聞こえる。
辺りを見回すと、女子更衣室のほうから母親と妹の千尋が手を振りながらやってくるのが見えた。
会うのは半年ぶりか。
千尋は駆け出さんばかりの勢いで母親の腕を引っ張ている。二人とも元気そうだ。
「母さん! 千尋!」
手を振り返すオレのパーカーの袖を、部長がクイクイと引っ張ってきた。
「あのさあ、三階堂蓮児クン」
「はい?」
「今日待ち合わせしてるのって、おまえの母ちゃんと妹だよね」
「ええ、そうですけど」
「母ちゃんっていくつ? 妹さんは小5だったよね」
「ええと、ウチの母親は38歳ですね。妹は11歳になってるはずですけど」
「うそつけ、アレはどうみたって女子大生二人組だろ!」
部長は目を丸くしていた。
そういえば、先輩たちには言うのを忘れてたっけ。
「あ、ウチの母親、自分の経営してるエステサロンでいろいろ治療受けてるんで、見た目メッチャ若いんですよ。妹はどういうわけか成長がよくて、小4ですでに身長160超えてましたから」
母親も妹もモデル並みの体型の持ち主で、しかも身内のオレがいうのもなんだけど、めちゃくちゃ美人だった。
黒いハイレグをきたゴージャス美女の母親と、真っ赤なビキニで弾けるような笑顔の妹。
二人とすれ違う男たちは、みな鼻の下を伸ばして振り返っている。
「サギだ……あんなの小5じゃない」
がっくりとプールサイドに膝をつきながら、木場先輩が恨みがましい目でこっちを睨んでいた。
思ったとおり、千尋は先輩の範囲外らしい。
オレはホッと胸を撫で下ろした。
「お兄ちゃん、久しぶりぃ会いたかったよぉ!」
甘えたような声をだしながら、千尋がオレの腕にしがみついてくる。
しばらく見ないうちに、また一段と成長しているようだ。
身長はもうほとんどオレと変わらない。手も足もほっそりとスレンダーだけど、胸だけはどんどん育って真っ赤なビキニからこぼれんばかりになっていた。
「お兄ちゃん、遊ぼうよ!」
「ちょっと待ってな。お兄ちゃんは少しだけ母さんと話があるからさ。千尋はこっちのお兄さんたちに遊んでもらってて」
「えっー!」
「わがまま言わない。二人ともお兄ちゃんの部活の先輩で、とってもお世話になってるんだ」
「そうか、千尋知ってるよ。こういうの接待っていうんだよね。普段お世話になっている人に若い女の子をあてがって、もっと良くしてもらおうっていう」
「バカなことをいうんじゃありませんっ! さあ、行っておいで。すいません、羽根園部長、木場先輩、ちょっとのあいだ千尋を御願いします」
「千尋です。いつもお兄ちゃんがお世話になってます。おねがいしまぁす!」
部長と先輩が苦笑いを浮かべるのを見ないフリで、オレは三人を送り出した。
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