第七章 プールサイドの前哨戦
第33話 男子卓球部員たちの水着回
次の日曜日。
オレと羽根園部長と木場先輩の三人は、隣の市にある巨大プールを訪れていた。
「よぉし、今日は泳ぐぞ! イヤ待てよ、健全な男子高校生としてはナンパを目的とすべきか? うーん、悩むなあ」
海水パンツ一丁でも部長のテンションは無駄に高い。
まあ、女装してこなかっただけマシと思うべきなんだろう。
「そもそもプールなんて久しぶりだもんなあ。いつ以来だっけ?」
「中二の夏だな」
木場先輩が冷静に返答した。
その目は大きなサングラスで覆われている。
「ユウトが波のプールに足が着かないってキレて帰ったのが最後だ」
「バカ言え、俺はそんな心の狭い人間じゃないぜ。俺の心はこの海より広いんだ」
「いや、ここプールですから」
それに部長の心は洗面器よりも狭いじゃないですか……そんな言葉をグッと飲み込んで話題を転換する。
「でも、木場先輩がサングラスなんて珍しいですね」
すると先輩は太陽を見上げながらこう言った。
「そもそもこんな場所は、オレにはまぶしすぎるんだ」
こんな気障なセリフがサマになるのは、ウチの学校でも木場先輩くらいだろう。
やっぱ、イケメンって得だよな。
あれ? でも先輩って目が弱いんだっけ?
十三歳以上の女性のそばによるとパニック障害をおこすという残念な持病があるのは知ってるけど、他にも病気があるなんて話はなかったような?
首をかしげていると、羽根園部長が木場先輩のサングラスを奪い取った。
「何気取ってんだ。だいたいこんな健全な遊戯施設でサングラスなんてかけてるのは、おっさんか中二病くらいだぞ。不審に思われるから外しとけ」
ちょうどそこへ、小学生女子の集団が通り過ぎて行った。
イマドキの小学生は水着もスクール水着じゃなく派手な柄で、中にはビキニなんてマセたガキもいる。
「げっ!」「げげっ!」
そして気がついた。JSの集団をみる木場先輩の目がヤバい。
完全に変質者の目つきになっている。
部長とオレは思わず顔を見合わせて、すばやくサングラスを木場先輩の顔に戻した。
「おまえ、絶対にサングラス外すなよ」
「外したら逮捕されちゃいますからね」
* * *
それからオレたちは、待ち合わせ場所のビーチチェアに移動して荷物置き場を作った。
「でもさあ、今日はなんでプールなんだ?」
「もともと妹とプールで遊ぶ約束をしてたんですよ」
高校進学と同時にオレが母親の家を出て親父の家に引っ越したせいで、妹はずいぶん淋しがってるらしい。
たまには遊んでやってくれと母親に頼まれていたのだ。
しかしわざわざ先輩たちを連れてこのプールにやってきたのは、妹の機嫌を取るためだけじゃない。
付き添いとしてやってくる母親に、例のことについて相談するつもりだった。
ひいながオレの親父と結婚すると言い出したのは先週の話。
もちろん本気じゃないとは思うんだが、それからひいなは親父の婚約者だと言い張って家に出入りするようになった。親父のヤツが自宅の鍵を渡してしまったんだ。
(まさか本当に結婚するってことはないだろうけど……)
親父に真相を問いただそうとしても、こそこそ逃げ回ってオレと顔を合わせようとしない。
(……そういや、アイツの女子高生が好きとかぬかしてやがったな)
日を追うに連れて、だんだん不安になってきた。
そこでオレは母親に相談、というかぶっちゃけ親父に結婚を止めるように説教してもらおうと思ったわけだ。離婚してからも親父と母親は頻繁に連絡を取り合っており、親父に意見することができるのは母親以外には考えられなかった。
すると、部長が不審げに耳打ちしてきた。
「三階堂の妹って小5なんだろ。いいのか? こんな変質者と引き合わせても」
「一応、ドッチビーのときに約束しましたからね。それに、たぶん千尋なら大丈夫だと思います」
妹の千尋は兄の目からは申し分なく可愛いけれど、先輩の好みとはちょっと違う気がする。
「もしかして、水着回とか気を回してんじゃないだろうな? まったくおまえの主人公気取りには頭が下がるよ。けど俺たち三人とおまえのかあちゃんと妹じゃ、みなさんのご期待に沿うようなサービスカットにはならんと思うぞ」
部長のつぶやきに、木場先輩が首を振る。
「JS5の妹がいれば十分」
「
「いやいや、ユウキ先輩が来たってサービスカットにはならないでしょ!」
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