第32話 幼馴染、ママになる
「いやぁ、助かったよ」
ズボンについた落ち葉を払って立ち上がりながら、ひいなに礼を言った。
「フン、どうだか。これから彼女とチョメチョメしようってところをジャマされた、余計なことしやがってって思ってるんじゃないの? 」
しかし、幼馴染は不機嫌そうにそっぽを向いたままだ。
「チョメチョメって何だよ。ホントだって。だいたいあの先輩、あんなカッコしてるけど男だったんだぜ」
「なら相手が女子だったら、おとなしく乗っかられて大喜びでパンツ見せてもらってたってわけ?」
「それはおまえ……」
思わず口ごもる。もし先輩がホントの女子だったら、どうしただろうか?
ひいなは、そんなオレを眺めながらじれったそうにつぶやいた。
「もう、決めた」
不吉な予感が頭をよぎる。おそるおそる尋ねた。
「決めたって、何を?」
「前に言ったよね。あたし、魔法が使えるって」
「……いや、超能力者じゃなかったっけ?」
「うるさい。どっちでもいいでしょ。約束覚えてる? 蓮児が言ったんだからね。魔法か超能力が使えたら、料理でも何でも作りに来ていいって」
たしかあれは卓球部に入る前のことだっけ。
幼馴染が飯を作りに来るのはフィクションの世界だけだとかなんとかで、そういう約束になったんだった。
でもその約束がどうしたっていうんだろう。
まさか、またインチキ超能力でもみせるつもりなのか?
「ああ、もちろん覚えてるさ。もしひいなが魔法少女なら好きにしていいよ」
オレはやれやれと肩をすくめた。
「また、そんな言い方して!」
すると、ひいなは眉を吊り上げた。
「あたしを舐めてるんでしょ! 蓮児はいっつもそう。あたしなんか何にもできないと思ってる。でも、覚えておいて。女の子はね、本気になったら一つだけすごい魔法を使うことができるんだから!」
さっきからなんだかちょっとヘンだった。
いつものひいなは独特のふんわりした雰囲気で場を和ませてくれるのに、今日は妙にピリピリしている。
「な、なんだよ。変な迫力出してさあ」
「あたし、お嫁さんになることにしたから。そしたら蓮児の家で家事しても文句ないでしょ」
「へっ?」
わけがわからなかった。
「お嫁さんって、なんでオレがひいなと結婚しなきゃなんないんだよ!」
「……別に、蓮児と結婚するわけじゃないもん」
「はあ、おまえ、言ってることムチャクチャだぞ! オレ以外のヤツと結婚して、ウチに家事しにくるなんておかしいだろ!」
もともと天然っぽいトコがあるヤツだったけど、ついに頭がおかしくなったのか?
オレ以外のヤツと結婚したら、そいつの家に嫁に行くわけだろ……ん?
混乱するオレの脳裏に、いやーな想像が浮かんだ。
「……って、まさか、ひいな、おまえ」
「フフン、気がついた? あたし、蓮児のお父さんと結婚することにしたの。もちろん、お父さんにはちゃんとOKもらってるから」
「何考えてんだ、あんのエロ親父!」
舌打ちするオレにむかって、ひいなは得意そうに胸を張った。
「だから、これからあたしは蓮児のお母さんってわけね。母さんでも、ママでも、好きな風に呼んでいいよ」
その胸だけはいつのまにかお母さん級に育っている。
でも、だからって、こんなことありえるのか?
幼馴染がいきなり母親なんて!
「なあ、冗談だよな」
「本気も本気、大本気よ」
「いつの時代の言い回しだよ、それ。てゆうか、おまえのご両親が許すはずないだろ。倍以上歳の離れたおっさんと結婚なんて」
オレの必死の反対を、ひいなは余裕で受け流す。
「それがそうでもないのよ。玉の輿だって、大喜びしてるわ」
「マジかよ……みんなどうかしてる、頭おかしくなっちまったんじゃないのか!」
呆気にとられるオレを見て、ひいなはしてやったりと言わんばかりの笑顔でこう言った。
「まあ、蓮児クンったら、そんな汚い言葉遣いしちゃダメですよ。これからは、ママがビシビシしつけてあげますからね」
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