第31話 幼馴染は負けない!

「そりゃ同じ顔だよ、一卵性だもん。それに主人公アピールって、責めてるわけじゃないんだよ。アピールしたっていいじゃない。わたしだってヒロイン志望だから、アピールしたくなる時もあるし」


 そう言いながら、ユウキ先輩は倒れたオレの上にまたがってきた。

 スカートの裾から、ピンクの水玉がチラチラ見え隠れする。

 いいのか? いいのか、オレ? こんなところで先輩とエッチなことをしてしまうのか?

 

(――いや、むしろ何故ダメなんだ!?)


 ユウキ先輩は、まさにオレの理想の美少女。部長の女装じゃない、本物の女の子がやっと現れてくれたんだぞ……って、アレ?


「先輩、今、一卵性って言いませんでした?」

「そうだよ、兄とわたしは一卵性双生児。やだ、ソーセージだなんて、エッチぃ」


 チョット、待て!? 一卵性ってことは、それはつまり……


「つまり、部長も本当は女の子!?」

「ブブッー、はずれぇ!」


 目の前がまっくらになった。


 日差しの暖かい初夏の午後。

 きらきらと輝く陽だまりの中で、ラノベイラストから抜け出したような美少女と二人きり。

 そんな夢みたいな状況から、一転して奈落の底へと突き落とされてしまった。

 天国から地獄とはまさにこのことだ。


「ちょ、ちょっと離して! どいてください!」


 あわてて身体を離そうともがくと、ユウキ先輩はがっしりと足でオレの胴体をロックした。

 逃げようとしても、ピクリとも動かない。

 やっぱり、この力は女子ではありえなかった。


「どうしたの、急に? わたしが男だって気にしてるの? 大丈夫だよ。アニキの変な女装とは違って、わたしの心はホンモノの女の子だもん。ただちょっと余分なモノがついているだけ」


 いや、そのちょっと余分ってのが割と肝心なんですけど。


「でも、さっき無かったじゃないですか! ついてなかったですよね!」

「ヤダなぁもう、そんなにマジマジと見てたの? 普段はテープで後ろに、って何言わせるのよ。これ以上は、乙女ののヒ・ミ・ツ」


 聞きたくなかった!

 ってゆうか、そんなの絶対に乙女のヒミツじゃないよね!


「それにぃ、高校を卒業したらすぐ手術してとっちゃうから、オールオッケーだよ」

「オッケーって、何がオッケーなんですかっ!」

「だからぁ、キミがこれからわたしの大事なところをじっくり見てもオッケー」


 ユウキ先輩は、さらにスカートをたくし上げる。

 どうしてだろう? さっきまでは見えそうで見えないその部分にあんなにドキドキしていたのに、今は本気で見たくないぞ!

 思わず顔を背けたそのときだった。


「蓮児、いったい何してるの!?」


 聞き覚えのある女の子の声がする。

 みると、小笠原ひいなが林の中で仁王立ちになっていた。


「ひいな、おまえ、どうしてここに?」

「男子卓球部の部長さんが、蓮児はここにいるって教えてくれたの。それより、こんな人気の無いところで何してるのよ。いやらしい」


 ふだん滅多に怒らないひいなが怒りに肩を震わせている。


「誤解だぞ、コレは別に疚しいことをしているわけじゃ、」


 弁解しようとするオレをユウキ先輩が遮った。


「あら、あなた三階堂クンのお友達? でも、もう少し気を使ってくれないかな。見ての通り、わたしたち二人でイイコトしてるの」

「イイコトって、学校でそんなことしていいと思ってるんですか」

「あら、お友達かと思ったら風紀委員なの? じゃないならあっちへ行ってて。はっきり言っておジャマなんだけど」


 ひいなとユウキ先輩は、互いに一歩も引かずににらみ合う。

 コレがウワサにきく修羅場ってヤツなのか?

 緊迫する状況で、雌雄を決したのはひいなの次の一言だった。


「どうでもいいけど、スカート持ち上げるんなら無駄毛のお手入れくらいしてください。そんなボーボーの股間見せられて、蓮児も迷惑してますから」

「な、なんですって!」


 ユウキ先輩は顔を真っ赤にしてスカートの中を覗き込む。

 それから「ぐぼぉぉぉおお」という暴走したエ〇ァンゲリオンのようなうめき声を発すると、一目散に林の中へと消えて行った。


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