第44話 お宝の在り処

「ちなみに、今現在の卓球部員が少ないのは西和工とのトラブルとはなんの関係もない。荒馬先輩が部長時代に遊〇王をやりたいヤツだけを集めて部員にしたからだ。そいつらは先輩が退部すると、みんなあっさり部をやめてしまった。まあ、もともと卓球をしたい連中じゃなかったからな」

「ええーっ!?」


 西和工の番長が大会で不正って、卓球の大会じゃなかったのか?

 じゃあ、荒馬元部長が愛してるのは卓球じゃなくて、遊〇王ってこと!?

 卓球を好きな人間に悪いヤツはいないって、オレの感動を返せ!


「……先輩が、先輩が一番マトモだと思ってたのに」


 荒馬元部長は巨体を丸めながら揉み手して愛想笑いを浮かべる。


「いやー、もちろん卓球だって愛してるんだぜ。でも、まあ何が一番かって言ったら、遊〇王には勝てないかなーってな。わかってくれよ。キミだって遊〇王好きなんだろ。言ってたじゃないか、一緒に大会に出てタッグデュエルしたいって……いいだろ、見逃してくれよ」

「オレが言ってたのは卓球の大会です!」

「……まあ、そうじゃないかとは思ったんだけどな」


 それでもまだグズグズ抵抗を見せる大男に、羽根園部長はピシャリと言い放った。


「先輩、とにかく卓球の大会には出ていただきますからね。式部先生と廃部を掛けた約束をしてしまったわけですから」

「うう、今からキャンセルできないか」

「そうは行きません。忘れたんですか? 先輩の宝物は、俺が預かってるんですよ」


 そうだった。先輩の隠したお宝がこの部室にあるんだった。

 でも、いったいどこに何を隠してあるんだ?


「返してくれ! アレは、俺の命の次に大事なレアカードなんだ」


 命の次に大事な宝って……遊〇王カード?


「そんなものを、なぜ部室に置いてたんです?」

「家に置いとくと母ちゃんに捨てられちまうんだ。いい歳して、カードなんか卒業しろってさ。だから部室に隠しておくしかなかったんだよ」


 母親に捨てられるから部室にカードを隠すって、この男、見た目はVシネマなのに中身は小学生じゃないか。


「……どんな危険なブツかと思えば、カードですか」

「いや、ソイツはメッチャ危険だぞ。いけにえ一体で攻撃力3000超えだから」

「荒馬先輩は黙っててください! でも、カードなんて部室のどこにも見当たらなかったですよ」

「フン、まあ、三階堂には見えなかったろうさ」

「??」


 意味がわからず小首をかしげるオレの後ろに、羽根園部長がそっと手を伸ばした。

 なんと制服の背中にそのお宝カードが貼り付けられていたのだ。


「いつのまに、こんなトコに? あ、あの時か!」


 そういえば、別れ際に背中をバシンと叩かれたっけ……


「まあ、敵を欺くにはまず味方からっていうだろ。先輩、このカードを返して欲しければ、来月の卓球の大会に出てください」


 チビの羽根園部長と巨漢の荒馬先輩ではまるっきり少女と熊だ。しかし得意げに胸を張る少女の前で熊はガックリと膝をつき、力なくつぶやいた。


「……ああ、わかった。言うとおりにするよ」


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