第26話 この男、存在そのものが異能

「まあ、聞け。この試合、異能力卓球勝負とする!」


 …………………

 …………

 ……出たよ。


「なんすか、その異能力卓球勝負って?」

「簡単なことだ。基本的に卓球勝負だけど、お互いの持つ異能力は無制限に使用が許可される」

「異能力とか、オレそんなモン持ってませんよ!」

「三階堂、おまえまたまた主人公アピールかよ? イヤミなヤツだな」

「何言ってるんです?」

「主人公が最初無能力ってのはお約束だからな。どうせ今は無能力でも、試合で負けそうになったら覚醒してとっときの能力を発動させるつもりなんだろ」

「いや、それどんな世界設定ですか!」

「フン、例え世界観や設定がどんなだろうと、この卓球部に入部した以上、異能力の一つや二つ身につけてもらうぞ。おまえがこの卓球部(せかい)で生き残るためには異能力者であることは必要不可欠だからな」


 きっと、なんか悪いモンライトノベルでも読んだんだろう。

 疲れるな、まったく。

 せっかくまともな卓球ができると思ったのに……オレはがっくりと肩を落とした。


「で? 部長はいったいどんな異能力を持ってるんですか」


 まあ、アンタは存在そのものが異能力ですけど……。

 しかし、部長は鼻で笑って答えようとしなかった。


「馬鹿タレ、異能力勝負は敵の能力を推理するのが醍醐味だろ! 事前に手の内を明かすヤツがいるもんか!」

「じゃあ、木場先輩はどんな能力者なんです?」


 話を振られて、傍観者を決め込んでいた木場先輩は慌てて首を振った。


「いや、自分だって異能力なんて持ってないぞ」


 そんな本人の発言を無視して、部長は得意げに胸を張る。


「教えてやろう、ヤツの異能力は『妄想少女』。自分の脳内に理想の少女を作り出し、いついかなるときでも妄想の中で少女と戯れることができるのだ!」

「いや、それ異能力じゃなくてただの変態ですよね! 木場先輩を勝手に変態扱いするのは止めてください!」


 部長に言われて、木場先輩ははたと手を打った。


「あー、そういわれればその能力持ってるわ。……なるほど、自分、異能力者だったんだ」

「木場先輩!」


 コロリと説得されて肯く木場先輩を横目に、羽根園部長は試合開始を宣言した。


「じゃあ試合開始な。あっ、言い忘れたけど、勝利条件は普通に一ゲームとる以外に、相手を戦闘不能に追い込んでもOKな」

「どうやったら卓球で戦闘不能になるんですか」

「まず、俺の能力『悪戯な道化師』を発動!」

「……はい?」

「この能力はテレポーテーションの一種だ。相手のアイテムを別のものと入れ替えることができる。それだけじゃないぞ。入れ替えられたアイテムの所持者はそれに気づくことができないんだ。能力としてはアンコモンクラスだが、使い方次第で恐るべき効果を発揮する主人公にピッタリの異能力だな」

「はぁ」

「では三階堂、おまえの自慢のラケットをスルメにチェンジだ」

 そう言って部長はオレのマイラケットを奪い取ると、代わりにどこから持って来たんだか、スルメイカを握らせた。

「ちょっと、これでどうしろって言うんですか!」

「バカモン! アイテムをチェンジされたことに気づくことはできないって言ったろ。おまえはそのスルメをラケットだって思い込んでんの」

「無理ですよ。これ明らかにスルメじゃないですか。しかもなんかスゲー臭うし、ちょっと腐ってんじゃないですか? 木場先輩、なんとか言ってくださいよ!」


 審判の木場先輩に助けを求めようとして、オレは思わず頭を抱えた。


「それじゃあセンセイがモシモシって診察しますから、お洋服を脱ぎ脱ぎしましょうねえ」


 部室の隅で木場先輩は自らの異能力『妄想少女』を発動させ、脳内少女とのお医者さんゴッコに勤しんでいた。


「……木場先輩が戦闘不能に」

「よそ見すんな! 俺のサーブから行くぞ! スペースオーガニックサーブ!」


 大仰な掛け声とは裏腹に、部長のサーブはビックリするくらいヘナチョコだ。

 でも、そのヘナチョコサーブをリターンしようとした瞬間、スルメイカは風圧でペロリと折れ曲がった。

 ボールは点々とオレの後ろに転がっていく。


「よっしゃあ、まず1ポイント先取!」


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