第3話 部活選びと超絶美少女
放課後の校庭は、まるで真夏のような暑さだ。
オレは一人、入るべき部活動を探して学園内をさまよっていた。
右手にある第一グラウンドでは野球部が、左手の第二グラウンドではサッカー部が練習をしている。
「まあ、この二つはありえないか」
ウチの高校は進学校で、ほとんどの部活動がお遊び程度に行われている。
しかし野球部とサッカー部だけはスポーツ推薦を募っていて、甲子園やインターハイに出場したこともあるマジ部活だった。
親父の命令で無理矢理やらされるとは言え、こちとら毎日の家事を一手に引き受ける主夫。部活ばかりに没頭するわけにもいかない。
当然野球部とサッカー部は却下だ。
とりあえず、体育館に向ってみる。
その間にも、校舎からは合唱部の歌声が聞こえ、大きなキャンバスを抱えた美術部員とすれ違った。目の前を羽織袴でなぎなたを持った女子生徒が横切っていく。
(なぎなた部なんてあったっけ?)と思っていたら、なぎなた女子を追う様に鎧兜に身を包んだ落ち武者たちがあらわれた。ギョッと飛び退くと、その後ろからビデオカメラを持った生徒が通り過ぎていく。どうやら、映研らしい。
(ウチの高校って、無駄に部活の数多いんだよなぁ)
よくよく辺りを見回すと、校内にはいったい何の部なのか見当もつかない集団がうようよしていた。我が圭光学園には、同好会も含めて40以上の部活がある。
(今日中に決めなきゃいけないんだから、一つ一つ見学してる暇なんてないぞ)
ある程度は消去法で絞り込まなきゃキリがない。
まず、せっかくだから身体を動かす方がいい。
文化部よりは、運動部だ。
ただし、オレは性格的に団体競技には向いていない。いばれることじゃないけど、バスケとかラグビーとか集団でやるスポーツはダメだ。
他にも格闘技系はNGだ。
自分が痛いのもイヤだし、相手を痛めつけるのも好きじゃない。
そこまで考えて、ふと思い出した。
ちょうど三年前、中学に入ったときも同じようなことを考えたんだったっけ。そしてさんざん悩んだ挙句、オレは卓球部に入った。
小学校のときも近くの卓球教室に通っていたから、中学に入ったら別のことをしようと思っていたにもかかわらずだ。
「なんか、全然進歩してないんだなあ」
体育館にまわると、なにやら聞き覚えのある音が聞こえてきた。
ピンポン球の跳ねる音だ。
なんだか妙に懐かしい。
高校で卓球部に入らないからといって、三年前に卓球部を選んだことが間違いだったと思っているわけじゃない。
中学時代はラケットを握らない日はないくらい練習に打ち込んでそれなりに上手くなり、部内ではエースと呼ばれていた。
一言で言うと、楽しかった。
ただ高校に入ってせっかく新生活を迎えるわけだから、まったく新しいことにチャレンジしてみようってだけの話なんだ。
そっと体育館のドアに手を掛けた。
中三の夏に卓球部を引退してから今日まで、卓球台のあるところに来たのは初めてだ。
(もしこの扉を開けて、熱心に勧誘されちゃったらどうしよう?)
オレの出身中学は、毎年関東大会に出場するくらいの強豪だった。
その中でもオレは二年のときからレギュラーで、三年のときの部内ランクはたいてい一位か二位。
ぶっちゃけ、三年生相手でも負けない自信がオレにはあった。
部活を見学している最中につい腕前を披露して先輩たちから是非入部してくれと懇願され、一年生でエースの座におさまる。
そんな厨二病的な展開が浮かんで、つい顔がニヤける。
しかし次に頭を過ぎったのは、今朝の夢だった。
唸りをあげる白球の前に立ち尽くすオレの姿。
(……やっぱりやめとこう)
そう思って体育館に背を向けた、そのときだった。
(うわっ、なんだこの美少女)
目の前に制服姿の女子がいた。
ストレートの黒髪に陶器のような白い肌。その小さな顔には大きな瞳がキラキラと輝いている。
そこらのアイドルならまとめて公開処刑できるレベルの超絶美少女だ。
(一年の校舎では見かけない顔だから、きっと上級生なんだろうな)
そんなことを考えていたら、その女子がいきなりオレの顔面めがけてピンポン球を投げつけてきた。
「ええっ!?」
あわてて左手でキャッチするが、バランスを崩して体育館のドアに背中がぶつかってしまう。
その拍子にドアが開いて、オレは体育館の中に倒れ込んだ。
「痛てて、ちょっと何するんスか!」
いくらピンポン球だからって、いきなり顔に向かって投げてくるなんてどうかしている。
ところが――
「ほら、一年、声出てないわよ!」
「ケーコー、ファイ」「オー」「ファイ」「オー」
倒れ込んだ先の体育館の中で繰り広げられていたのは、50人近い女子による練習風景だった。
そういや部活は男子女子合同もあれば男女別の部もあって、文化部はほぼ合同、運動部はほぼ男女別だったと記憶している。
(ってことは、これは女子卓球部の練習なのか?)
オレは慌てて体育館を出ようと、立ち上がった。
女子卓球部員たちは体操着やジャージ姿だから別にやましいところがあるわけじゃないけれど、やっぱり妙に落ち着かない。
「アンタ、何やってるの!?」
突然、誰何の声が飛んできた。
振り返ると、年は20歳後半だろうか? キツそうな顔をした美人がこっちをにらみながらズカズカと歩み寄って来る。
おそらく、女子卓球部の顧問だろう。
彼女はオレの前に仁王立ちになると、上から見下ろすように言い放った。
「ずいぶん堂々としたノゾキね」
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