絶対に負けられない戦いはどこにあるっ!?
第47話 作戦会議:エースにはエースを
そして、いよいよ大会の朝――
「マジかよ!?」
まだ朝の七時だというのに、オレは今日二回目の驚きの声を上げていた。
ちなみに一回目は、荒馬元部長の家の前を張っていてこっそり遊戯王大会に行こうとする先輩を発見した時だ。
それでもなお逃亡を図ろうとする元部長を三人でおさえつけ、なんとか大会会場に引きずってきたところだった。
「ユウト、これどういうことだ……?」
木場先輩の声も心なしか震えている。
オレたちが目にしているのは、市立体育館の壁。に貼られている大会の組み合わせ表だ。
もともと、K市の市民体育大会特別高校卓球大会に参加する高校はウチを入れて四校のはずだったのだ。それが、直前になって一校増えていた。
私立丸富高校。
オリンピック強化選手の高橋英樹を擁する強豪校だ。
「なんで丸冨がこんな大会に出てくるんだ?」
市民体育大会に併せて行われるこの卓球大会は、どちらかというと市民のお祭り的要素が強い。近く関東大会も控えているので、例年丸富高校はこの大会には参加しない、という話だったんだが……。
もしかして、プールでの一件を根に持った高橋英樹のやつがオレたちを潰すために大会参加を決めたとか?
荒馬元部長が不安げに言った。
「おい、大丈夫なのか? この大会に優勝しなきゃ、俺の入部は認められないし、そもそも卓球部も廃部になっちまうんだろ」
「そうですよ、……それに」
廃部もそうだけど、それだけじゃない。
(もし優勝を逃したら、ホントにひいなが母親になっちまうんだ)
顔をひきつらせるオレの肩を誰かがバシンと叩いた。
部長だった。
「大丈夫。安心しろ」
力強い口調。
その小さな身体からは自信のオーラがあふれていた。
「丸富がなんだってこの大会に出てきたかはわからない。でもな、ビビる必要はないぞ! オレたちが負けるはずないじゃないか! これまでのつらかった練習の日々を思い出せ!」
「思い出せって、練習なんか全然してないじゃないですか!」
オレのツッコミを無視して、部長は続けた。
「それに、こんなこともあろうかと対丸富の作戦はばっちり考えてあるんだ」
「ホントですか?」
「ああ、あそこはたしかに強豪だが、図抜けているのはオリンピック候補の高橋英樹ともう一人関東大会ベスト8の北大路って三年生だけだ。他のヤツならパワーアップした木場の敵じゃない」
「パワーアップって、先輩、もしかして今日のために秘密特訓を?」
しかし、木場先輩はきょとんとした顔をしている。
「ユウトよ。盛り上がってるところ悪いが、自分は別にパワーアップした覚えはないんだが?」
「フフフ、よく耳の穴かぽじって聞け。おまえの時給いつもは500円だが、今日は550円を支給する。それだけじゃないぞ。優勝ボーナスとして、2年後にウチの四葉とデートする権利をやろう」
「うぉおおおお、パワーアップ、完了!」
アホだ。
いや、アホというより変態だ。
でもいくら木場先輩がパワーアップしても、それだけで優勝できるのかな?
「さらに新年度になってからの丸富のオーダーを調べてわかったんだが、桃太郎侍は全試合第4シングルスで出場している。それにダブルスには出てこない。まあ、オリンピック候補とはいえ一年生だからな」
ちなみに卓球の大会では、選手のオーダーを試合ごとに細かく組みかえることがほとんどだ。たとえば、自軍にカットマンが苦手な選手がいればそれを避けるように順番を入れ替える。ただ、高橋秀樹のように圧倒的に力のある選手なら大将として固定するのも当然だろう。
じゃあ、どうする?
木場先輩は中学時代、高橋に無敗だということだった。それなら、先輩を高橋にぶつけるのか?
「そこでだ、敵の大将をコテンパンに叩きのめすために、うちのエースを第4シングルスにもってくることにした」
ホントにそれでいいんだろうか? いくら中学時代負け無しと言っても、木場先輩は最近練習してないわけだし……
「高橋英樹と対戦する第4シングルス出場選手は、羽根園」
そう言って、部長は大きく胸を張った。
「はあ? 誰がうちのエースなんですか?」
そうツッコもうとして、口をつぐんだ。
敵の誰と当たっても確実に負ける部長が高橋英樹と対戦するというのは、これ以上ない良い作戦だったからだ。
「あとの敵オーダーはだいたいの予想だが、第1シングルスは関東ベスト8の北大路、第2シングルスは部内3位の二年生遠藤、第3シングルスはキャプテンの宮元、ダブルスは北大路と宮元になるだろう。それに対するウチのオーダーはこうだ。第1シングル荒馬、第2シングル三階堂、第3シングル木場、ダブルスは木場と荒馬。これで行く」
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