第四章 男子同士の熱い絆、アーッ!? 対女子卓球部戦!

第17話 音楽性の違いはなかったが……

 週明け、月曜日の放課後。

 部室に行くと今日もすでに部長と副部長がいて、特にミニスカート姿の羽根園部長はオレが来るのを今や遅しと待っていた。


「よし全員揃ったな。それじゃあ、早速作戦会議を行うぞ!」


 今日も部長はノリノリだ。

 一方の副部長は今日も黙々と勉強、と思いきや内職をしていた。なんでも大学生の課題レポートの代筆というアルバイトなんだそうだ。


「今日の議題は、これからの男子卓球部の活動内容。もっと具体的に言うと部員獲得のために何をすべきかということについてだ!」


 アレ? 不本意ながら手を上げてみる。


「ええと、それって確かこの間、バンドやるって言ってませんでしたっけ? 文化祭のステージに出て人気バァン部員ドォンみたいな」


 すると女装部長は暗い顔になった。


「三階堂クンには、非常に残念なお知らせがあります。……我が男子卓球部バンド、ピンッポンパーティーは、昨日を持って解散しましたっ! 今までありがとうっ!」

 

 えっ、解散?


「ええっ!? まだ何にも活動してないじゃないですか! だいたいピンッポンパーティーって、いつのまにそんなパクパクなバンド名が決まったんですか!?」

「むう、無念な気持ちは良くわかる。キミはこの『バンドで部員大量ゲット!』計画に一番乗り気だったからな」

「残念じゃないし、乗り気でもなかったですよ!」

「だが、仕方がないんだ。実はあの計画には大きな誤算があってね。文化祭のステージでバンド演奏をして部員を集める予定だったけど、考えてみたらウチの高校の文化祭は10月だろ。それじゃあ遅すぎる。前期が終了する9月までに部員を五人集めなきゃ廃部っていうのが、我が桂光学園の決まりだったんだわ」


 言われてみれば、たしかにそんな話は聞いた気がする。


「だったんだわって……危なかったなあ、あやうくホントにベース買っちゃうトコだったじゃないですか」

「そこで、もう一度話し合おう。新入部員を呼ぶために我々は一体何をすべきか!」 

「だからオレは繰り返し言ってるじゃないですか。卓球部なんだから卓球すりゃいいんですよ。木場先輩が大会に出りゃかなりいい線まで行きますよね。そうしたら部員なんかわんさと集まりますって」

「それは却下でーす!」


 オレの真剣な訴えも羽根園部長にはまったく相手にされない。

 今までなぜ部長が卓球をやりたがらないのか不思議に思っていたが、昨日のことでおおよその見当はついていた。

 なんのことはない。自分が苦手だからやりたくないだけなのだ。


「自分がヘタクソだからって」


 思わずつぶやいた。


「ん? 何か言った?」

「い、いや、なんでもないです」


 オレが部長の腕前を知ったのはまったく偶然の出来事だ。

 それを面と向って言うのはさすがに抵抗があった。


「おかしなヤツ。とにかく、木場は大会には出ない。コレはもう決定事項だ」


 部長はきっぱりと宣言する。

 さすがにオレもそれ以上抵抗できなかった。すると、それまで内職のレポートに没頭していた木場先輩がふと顔を上げた。


「でもなあ、三階堂の言う通り、まったく見込みのないヤツを入れるのもなんだろう。どうだ、ここは一つ、何か変わったスポーツをやって人目を引くっていうのは?」

「ん? 変わったスポーツってどういうことだ?」

「ああ、この六月の時点でまだ部活に入ってないヤツらは、いまある部活には興味がないってことだろ。でもそんなヤツらの中にも運動神経のいいヤツはいるはずだ。だから、オレたちが何か目新しいスポーツを楽しげにやってれば、ためしにちょっと入部してみようってなるんじゃないのか」

「むう、なるほど」


 いつも傍若無人な部長だけれど、木場先輩の言う事だけは尊重しているようだ。


「じゃあ、やってみっか。おい、三階堂」

「はい?」

「変わったスポーツ。見てる連中が自分もやってみたくなるヤツで、かつ他の部活でまだやってないヤツ。何か考えて」

「ええっ? オレがですか?」

「当たり前だろ。ウチは3人しかいないんだから、サボらないでちゃんと頭使え」


 部長だって大して頭使ってないじゃないですか!

 そう言いたかったがあえて言わなかった。

 卓球じゃなくてもスポーツをするんなら、バンドよりはずっとマシだからだ。


「わかりましたよ。変わったスポーツですね。うーん」


 しかし他の部活でやっていない変わったスポーツなんて、ピンポイントすぎやしないか?

 頭をひねって考えようとしたその時だ。

 部長が胸をそらせる例の決めポーズをとった。


「よし、決めた!」

「ええっ? 今、オレに決めろって言いましたよね!」

「いちいちうるさいヤツだな。だって、おまえ遅いんだもん!」

「……わかりましたよ。で、何にするんです?」


 少しずつだけど、オレは部長との付き合い方を学習しつつあった。

 ようするに、まじめに考えるだけ無駄ってことなんだ。


「これからの俺たち男子卓球部の活動はな――」


 呆れ顔のオレを無視して、部長は得意げに言った。


「ドッチビーだ!」

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