第21話 距離間
武器屋を出た俺とサクラは、早速第一の箱庭と繋がるダンジョンへと向かった。
「──ようこそ、
「あぁ、分かった」
前回のダンジョンとは違い、今回は攻略済み……つまり、ダンジョンコアが失われたダンジョンに入る訳だ。
その為、行動する人数に制限もなく、中で稼ぐ事を目的とする以外にも、ただ通過して第一の箱庭で生活をする者も居る。
ギルドカードはフロントで管理されているものの、そう大量にあっては管理が行き届かない。
よって、一定期間戻らぬもののカードはギルドに移され保管される。
ダンジョンに入るものは、ここで滞在日数を確認し、長期この箱庭から離れる者は連絡することを義務付けられているのだ。
「マサムネ様にサクラ様ですね。共に滞在は三日、よろしいでしょうか?」
「あぁ、間違いない」
「えぇ、右に同じね」
通過に一日、滞在に一日、帰宅に一日を
見ておけば、よほどだいじょうぶだろう。
「それでは、気をつけていってらっしゃいませ」
ギルド職員は深い御辞儀の後、俺達を見送った。
フロントを抜け、俺達は早速ダンジョンの中へと足を踏み入れる。
階段を降り、先へと進んでいく。
こちらから第一の箱庭に向かう道のりは、前回と同じく第一層がベーシックな洞窟タイプになっていた。
こちら側の第二層は、遺跡の様な作りになっており冒険者の出入りは少ない。
そして第三層は、過去に因縁深い……何もない大広間だ。
そこを通過すると、あちら側の二層、一層に繋がっており、そこは坑道型のダンジョンになっている。
「こっちのダンジョンは、半年ぶりにに足を踏み入れるわ……」
「そうなのか? それならこの先、驚くかもしれないな」
そう言えば、これは前回使っていたな。
俺はランプに、切れていた魔石の欠片をはめ込み、火をつける。すると、淡く辺りを照らし出した。
俺は紙とペンを準備しながら、階段を下りきる──。
「──本当ね……また広がってる」
俺の言葉通り、サクラは驚いた様子を見せた。
この前潜った、洞窟型のダンジョンと分類は同じ。
しかし目の前にある光景は、それとは似て非なるものだった。
「随分、様変わりしているだろ?」
「随分って規模じゃないわ……前までの面影が、まったくない」
彼女が言うように、洞窟型独自の狭い閉鎖空間の姿はそこにはなく。かなりの規模で拡張されていた。
例えるのであれば、そこは大空洞……とでも言えばいいのだろうか? そんな、広々とした空間になっていたのだ。
「この階層では魔石の採掘が盛んに行われているからな。最近は、さらに需要が増えているらしく、採掘作業も本格化しているようだ」
そして驚く事に、削った壁の表面には時間と共に血管のようなものが浮かび上がる。
例えるなら、植物の根のように……。
俺は「毎回やるのも面倒なのだがな」と、マップとペンを見せる、中の構造が変わっているからな、修正しなければ。
そして、化石燃料が枯渇した現在、新たに【魔石】と呼ばれる謎の石を代用している。
魔物を倒して得られる分はしれている。よって、ここで採掘をしているのだ。
「マサムネさん、魔石て……不思議ですよね。今じゃ生活に欠かせない物だとは分かっているのに、謎に包まれていて」
「あぁ、エネルギーの塊とは言われてはいるけどな。火をともせば明かりになり。冷やせば氷の様に冷気を放つ。そして、何故か魔物の核にもなるし、魔法やアビリティーの原動力にも……些か都合が良すぎるな」
どれぐらい前の事かは分からない。
いつしか生活に浸透していたと呼ばれる魔石。不思議……で済ませるには、都合が良すぎる。
しかし人類は、生きる上でそんな不確かなものに頼らなければいけない。それも事実。
「ギルドも詳しい情報は公開していないんですよね?」
「そうだ、理由は知らぬが特秘されているな。ヨハネもその事は口にはしないんだよ」
ダンジョンからしか取れない資源……人を生かしている、そう見えなくもないな。
同時に試練も与えているようだが──。
「──サクラあそこ、魔物が現れた様だ」
「でも……私の出る幕はなさそうね?」
魔物は、時折ダンジョンから生まれる。
攻略済みのダンジョンでは、それを複数のパーティーが一丸となって事に当たる。
そして今回も、別のパーティーが十人係ほどで、一匹の魔物を袋叩きし始めた。
「数の暴力か……見ていて気持ちいいものではないな」
それを横目に、先を急ぐことにした。
俺もこの光景はあまり好きではない……。青臭い考えかもしれないが、命のやり取りなのに公平にかける気がした。
「……あんな風に大勢でだと、倒した後の素材の回収で揉めないのかしら?」
「彼らは同じパーティーだろう。こちらは四人編成にこだわる必要もないからな」
数の暴力……確かに利にかなってるけどな。
「なんか……魔物が可哀想ね……」とサクラは振り返り、ポツリと呟いた。
……本当、彼女には驚かされる。
命を奪うのが仕事の“戦う者”が、そんな風に口にするとはな。
クラスや役割が違えど、同じような考えを持てる。
俺はそれが、何となく嬉しく、彼女との距離をより近しいものに感じるのであった。
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