第36話 癖


 ドゥジエーム第二のダンジョン第一層。

 捜索活動を行いながらも、俺はギルド職員とのやり取りの真意をサクラに話すことにした 。


「──先程のやり取りだが、本当に重要なのは会話の内容ではないんだ」


 通った道をペンを使い地図に記す。

 隊列は先頭がレオナ、少し斜め裏に俺、ほぼその隣にサクラの陣形だ。


「それってつまり、どういう事なんでしょうか?」

「──なんや、マサムネの知り合いっちゅうのに、そんなことも分からんのかいな!?」


 レオナはワザとらしく驚いて見せた。

 それにサクラは、落ち込んだ様子を見せる。これは不味いか?


「なに、別に知らずとも生きては行けるからな? ただ、戦闘に関しては話が別だ……」


 フォローには……なっていないか。

 流石のサクラも、それにはガッカリし落ち込んでいるように見える。

 そんな彼女に「知らなければ知ればいい」と、優しい言葉を掛ける。


 だからレオナ、何故俺を睨む……。


「オホン! 生き物には、特定の行動の前に行ってしまう条件反射の様なものが存在する。言わば、癖と呼ばれるものだな」

「癖っですか?」


 俺の教えに対し、食い入るように耳を傾けるサクラ。


 癖っと言うより、正しくは先天的反射っとでも言うべきなのだろうがな。


「戦闘では理解できますが、それがさっきのやり取りとどの様な関係があるんですか?」

「察しが悪いな、マサムネが尋問していた時も、ぎょうさん癖が出てたやろ?」


 ツーンっとそっぽを向きながら、冷たく言い放つレオナ。

 一対どうしたと言うのだ……そんな子じゃ無かったはずだろ?


「レオナ……もう少し友好的な物言いを……」


 その言葉に対し、頬を膨らませて俺を見るレオナ。

 何か気に触ることを言っただろうか?


「あ~……先程の彼は、嘘をついたり隠し事をする時、目が泳いでたんだよ」

「そりゃ……あれだけグイグイこられたら私でも動揺しますよ、そしたら誰でも目ぐらい泳ぐかと」


 反論や質問が返ってくる事は重要だ。

 彼女の中で聞いた事を受け入れ、何に納得が出来ていないか、疑問を持ったのかが分かる。

 つまり、しっかりと聞いてくれていると言うわけだ。


「それだけではない。本人の意図しないところで、会話中は瞬きの回数が圧倒的に減り、逆に視線を反らすと瞬きが増えていた。嘘をつくときに呼吸のリズムも変わっていたしな? その何れもが、嘘をつくときに人が行う事のある癖、っと言うわけだ」


 人にも個体差があるため、必ずしも全てが該当する訳ではないがな。

 嘘をつくのが上手い人間とは、知らずとも自然と“癖”を隠せる人……っと言うわけだ。


「言われてみれば、さっきの人はすごく該当していた様な……」

「それとな? 途中目線を左上に上げていたが、あれは回答を悩んでいたんだ。素直に全て話せないと言っているような物だな」

「……なるほど」


 どうやら納得してくれたようだ、全く、優秀な生徒だよ。


「良く分かりました。確かに意識すると見える物も広がる気がしますね」


 そう言いながら、サクラはふてくされているレオナを見た。そして──。


「レオナ先輩の、マサムネさんに対するその態度も、私に突っかかって来るような言い方も、その“癖”のひとつな訳ですね。そう思うと、少し可愛く見えてきました」


 ──っと、からかうような発言をしたのだ。


「──なっ!? あ、あんさん何言うてんねん!」


 レオナに反撃をする……っだと!?

 明らかに動揺を見せている彼女の言葉が、的を射ている証拠だ。


 まったくサクラの奴、将来は大物になるかもしれぬな……。

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