第44話 青の空

「マサムネさん避けて──!」


 キルの魔剣が、俺達に向かい振るわれた。

 サクラが突き飛ばすことにより、俺はなんとか魔剣の一撃をなんと回避することが出来た。


「……思ったよりリーチが長いわね!?」

「くっ、それに重さが無い為だろう……振りが速くてかなわんな……」


 しかも随時発動している為、詠唱いらずか……まったく、あの魔剣とやらは迷惑極まりないな!?


「はっはっは。マサムネ、大口を叩いた割には大したこと無いな? お得意の魔剣を出さなくてもいいのか? なんなら……待ってやるぞ」


 魔剣を持たぬ俺達の事を、強敵……なんて認識は無いのだろうな? 

 近づけば近く程、キルの魔剣は避けにくくなる。迂闊うかつに近づこうものなら、チリすら残らないだろうな──しかしあれを使う気など、更々ない!


「──そんなもの……貴様を倒すには必要など無い!」

「この……虫けら風情が吠えるな! 踏み潰してやる!」


 俺は魔剣を振られる前に、キルに向かい剣を振りかぶる……しかしそれは、到底剣を振って届く距離ではない──。


「さぁ、それはどうか──なっ!」


 ──俺は、振り下ろすと同時にキルに向け剣を手放したのだ。

 リーチが足りなくて当たらないのなら、投げてしまえばいい……簡単な理屈だ!


「なっ! 剣を……投げるだと!?」


 キルの手からは魔剣が消え、土の壁が現れた。

 予想通りだ──あの魔剣、複雑な魔法ゆえに、他の魔法との同時使用が出来ない!!

 

 ならば取る手は一つ──多方向による連続攻撃だ!


「サクラこれを使え、武器の貯蔵は十分ある! 好きなだけ放れ!」


 俺はサクラに向け、布の塊をほかる。

 彼女がそれの紐をほどくと、そこには十本近くの投げナイフが納められている。


 サクラはナイフを次々と引き抜くと「分かったわ!」っと、キルに向かい投げ始めた──その最中、俺は別方向へと走り出す!


 詠唱が必要な魔法の弱点、それは言うまでもなく、詠唱される前に攻撃されることだ。


「くそ、こしゃくな!」


 ただ奴は、あれでも一流の“祈る者”だ。

 自分を直ぐ様守る術ぐらい、持ち合わせている。 


 キルが足を上げ強く踏みしめると、身に付けている装備のいたるところから砂が飛び出し、それが盾を象り自身を守った。


 ことごとくサクラの投げるナイフは、キルが産み出した魔法の盾に弾かれ、底をついてしまう。


「──キルゥゥゥゥ! 」


 俺は盾を構え、サクラとは別方向から方から駆け寄った。

 奇襲をかけるに、あえて声を上げてだ──。


「気付いて無いと思ったか! 死ね、マサムネ!?」


 追撃のため、炎の魔法を使おうとするキルに、先程と同じ袋を見せつける。


「悪いな、それは効かんよ!」

「──ちっ!?」


 それを見て炎を消し、砂の盾を巨大な針へと変えた。


 巨大な針が、俺を串刺しに来るものの、間一髪で盾を構えそれを受けきった。木製の盾は、その衝撃で砕けてしまう。

 

「サクラ──今だ!」

 

 弦を弾く音が向かいから響き、突如キルの肩から鉄の杭が飛び出た。

 背後に回ったサクラが、折り畳み式のクロスボウを構えキル目掛け放ったのだ。

 先程渡した布の中身は、ナイフだけでは無かった……っ言うことだ!


「ア゛ァァァ 痛い、痛い痛い──イタイ」


 キルの叫び声が響いた。

 痛かろう……肩にとは言え、鉄の杭が貫通しているのだから。


 俺はキルの側に立ち、アーセナルからさらなる剣を手に取り鞘から抜きキルの首に沿えた。


「──お前の敗因は……おごりが過ぎたことだ……」

「はっは、まさか貴様の剣が届くことになるとはな。……屈辱だ、さっさと殺せ!」


 まったく、こんな時にもプライドの高いやつだ……。

 

 俺は剣を捨て、キルの首に手を回す……そして、落ちるまでそのまま力を加えた。


「殺してなど……やらないさ!」


 腕力なら“作る者”も“祈る者”も関係ない、キルの意識を奪うのは、さほど難しいものではなかった。


 今回の問題を企てた男は、そのまま力無く、意識を失ったのだった……。


「──マサムネさん……終わったの?」

「あぁ……終わりだ。すまないがサクラは、レオナ達の応援にいってくれ。俺はコイツを拘束しておく」


 サクラが駆けていくのを確認後、俺はキルを縛り上げ、最低限の治療を行った。

 暴れられるのも、死なれるのもごめんだからな……。


「コイツにとっては、俺に施しを受ける事が一番屈辱だったかもな?」


 天を見上げると、ダンジョンの中のはずなのに青空が見える。

 今回の事を期に俺の中の時も、空を漂う雲のようの動き出した……そんな風に感じるのだった。



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