第43話 何度も

「──マサムネさん!」


 幻聴だろうか? 死ぬ間際に聞こえる声がサクラの声とはな──しかしどうやら、それは幻聴では無かったらしい。

 何やら柔らかいものが、驚くほど激しい勢いで俺に衝突をしてきたのだ!?


 衝撃を受けた俺は、キルの魔剣を避ける結果に避ける事となり……そして何者かにアーセナルを引っ張られ、引きづられながらもキルから少しばかりの距離を取ることが出来た──。


「──ちっ。良いところを邪魔しやがって!」


 突然の事で追撃が出来なかったのだろう、キルの悔しそうな声が聞こえた。

 俺は上を見ると、アーセナルを握ったサクラが、奴に睨みを利かせている。


「──サ、サクラどうしてここに!? 魔物の群れはどうしたんだ!」

「レオナ先輩が言ってくれたんです『マサムネが死んでまう、こっちはうちらで十分や』って……だから、マサムネさんを守るのが私の仕事です!」


 なるほど。レオナのやつ無茶しやがって、後で説教を……いや、俺には言われたくないって怒り返されるだろうな。


「そこの嬢ちゃんの事はロキの野郎から聞いている。ルーキーが俺からマサムネを守るって? 笑わせるな!!」


 魔剣の切っ先が通った地面が黒ずんでいる……。

 通過しただけで焼け焦げる地面、確かに刃を交えることも許されないのは、相当な実力が求められる。

 いくら俊敏なサクラでも危険すぎる……。


「そうだ……奴の魔剣は危険だ、打ち合うこともままならない、俺は良いから逃げ……」

「──それでも!!」


 サクラは俺の胸ぐらを掴み、起こし……顔を寄せてきた。真剣な彼女の瞳に、無力な自分の姿が写し出される。


「それでも、私は貴方に一度命を助けられている……見殺しになんて、出来るはずがない!!」


 彼女顔を見れば分かる。引くつもりは無いだろうな?

 まったく……俺は何度彼女に気付かされれば気が済むんだ。


「……分かった。しかし、俺も守られるだけのつもりはない」


 自らの意思で大地を踏みしめ、アーセナルから新たな剣を引き抜いた……。

 俺がまだ立ち上がることに、憮然ぶぜんとしたキルの表情が、面白くなさそうに強張っていく。


「キル、相手は無能とルーキーだ……まさか、二対一は卑怯とは言わんよな?」

「あぁ、構わねぇよ。そこの嬢ちゃんはロキの御気に入りみたいだけど、殺しちまってもしゃーねえよな!?」


 魔剣を握りしめたまま、狂気的な態度で悪態をつく。

 まったく、俺ならともかく他の者すら殺すことに抵抗を持たないとはな……。


「サクラ……あの剣の切っ先には十分注意しろ。見た目より、リーチがかなり長いはずだ」


 あれを受け止めることはかなわない。ならば避けるか……もしくは──。


「そのようですね……何かいつものように、良い考えはないんですか?」

「考え……っと言うほどでもないがな? サクラ、君が一緒ならきっと勝てる!」


 奴の魔剣は確かに強力だ……しかしあれに固執しているなら、勝機はある!


「──サクラ、魔剣に怯えるな! お前なら勝てる!」

「はい!!」


 俺達は、剣を構え走り出した……それを見たキルは魔剣を掲げ、迎え撃とうとしたのだった──。

 

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