第8話 蘇る悪夢
目の前の魔物は、全身を
兜からは、魔物特有の赤い瞳がうかがえる。間違いない──あれはこちらを認識している目だ。
ただ、明らかに今までの魔物の類いとは、様子が違う。
知性無き生き物であれば、こちらを発見しなお警戒する素振りも見せず、座ったままなのはおかしい……。
本能が、そうはさせない筈だ。
俺が頭を悩ませる中、淡々と作戦が練られていく。
「大丈夫だ、相手は一匹……。シャルは魔法で牽制の一撃を。サクラは済まないが、奴の注意を引いてくれ。隙を見て、俺の大剣で
謎の魔物は、確かに体躯も成人男性のそれと、大きくは変わらない。
皆で連携を取れば、よっぽどの事がない限り……よし!
「少年、俺はどうすれば──」
「オッサンは邪魔だ! 足を引っ張らないよう引っ込んでろ!!」
くっ、邪魔か……確かに今の俺が前に出ようものなら、足を引っ張ることになるか。
念のため、アーセナルから盾を取り腕に固定する。
知性があるのなら、奴は普通ではないだろう……戦えなくても引率だ、いざとなればこの身を犠牲にしたとしても、時間稼ぎぐらいはな。
「動き出したぞ──サクラ、頼む!」
ゆっくりと動き出した魔物は、腰に差す剣に右手で触れる。するとその時、兜にはめ込まれた何かが、突如輝きだした。
あの赤々と光る石、何処かで見た気が──
「──や、奴は不味い! 一度撤退を!!」
「いや──リーダー命令だ! サクラ行け!!」
俺の叫びは虚しく、坊主の言葉で上書きされる。
流石のサクラも、戦闘においてはリーダーである彼の言うことは、聞かないわけにはいかないのだろう。
こちらを気にはしたものの、彼女は目の前に居る敵に向かい走っていった。
坊主も横から回り込み、シャルは魔法の詠唱を始める。
「もしあの時と同じなら……これは不味いかもな」
記憶が
「まったく──また対峙することになろうとは……」
過去に見た悪夢が蘇がえる。あの時の奴に比べたら、大きさも迫力も大したことは無いかもしれない。
しかし、ただでは終わらない。そんな胸騒ぎに似た何かが、心中を掠める。
「始まったか──」
──魔物が振るう剣を、サクラは舞うように避ける。しかし、奴はやはり強い……。
身軽な立ち回りを見せる彼女ですら、強引に距離を詰められた。
その痛みをものともしない、一心不乱とも見える攻めに、流石のサクラも全ては避けきれはせず、時折攻撃を自身の剣で受け流している。
剣同士が擦れ、火花が散り、顔を歪めた。その彼女の表情が物語っている……魔物の一撃の重みを。
「サクラさん──避けて!」
魔法の詠唱を終えたシャルはロッド掲げ「サイクロン!」と、声を上げた。
魔物の周囲の土が、突如渦を巻くように
サクラはその身のこなしで、直ぐ様その場を離れた。
危険を感じたのだろうか。魔物も今居る渦の中心から、脱出しようと後ろに下がるものの──
「──逃がしません!!」
渦は
「ギギッ……ギギギギギ!」
竜巻の中からは、何かが軋む音と魔物の悲鳴の様なものが聞こえ、魔物の甲冑の一部だと思われる部分が、空へと巻き上げられる。
「なるほど……見事な魔法だ」
どうやら彼女も優秀なようだ。あの規模の魔法は、おいそれとは発現出来ないだろう。ヨハネが下層への許可を出すのも納得だ。
ただ、どうやらそれでも倒しきれはしなかった様だ。
魔法の効果が弱まると共に、魔物は竜巻の中から姿を現した。
竜巻の外へ、体が全て出きる──その時。魔物の左側面から坊主が自身の大剣を、ただただ渾身の力で振り下ろした!!
「いいタイミングだ!」
魔物は坊主に気付き、咄嗟に左腕を出した。しかしそれでも、強引に大剣は振り抜かれる。
振るわれた大剣が奴の左腕を切断し、首に到達した。
──勝った!! この時俺を含め、誰もがそう思ったであろう……。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます