第40話 魔物、大量発生

 俺の声を聞き、男性が一人、女性が二人こちらに向いた

 もう一人の女性は見たことがないが、やはりあれはフラミーとキルに間違いない!


「……マサムネ?」


 フラミーも俺に気づいたか。

 彼女は、一目散に俺の元に駆けてきて……。


「マサムネ……!」

「──おふっ!?」


 俺のすぐ目の前でフラミーは転倒し、勢いそのままに腹部に向かい、見事な体当たりをしてくれたのであった。


「あ、頭が腹に……」

「……久しぶり……会いたかった」


 彼女は地面に倒れる俺に馬乗りになると、襟元を握り、何度も何度も揺すった。

 言うまでもなく、俺は何度も何度も頭を打つ。


 きっとこれも償いのひとつであろうと、抵抗もなく、止めることもせず、甘んじて受け入れる事とした。


 目を閉じ痛みに耐えていると、俺の襟元が濡れているのに気づく……。


「フラミー泣かないでくれ……誠に申し訳なかった」


 彼女の目を覆うほどの長く黒い髪を、俺は優しく撫でた。

 懐かしいな……泣き虫な彼女の髪にこうして触れるのも、実に五年ぶりになるのか。

 

 フラミーを落ち着かせていると、彼女の傍らから一匹の犬が現れた。

 もふもふの身体を俺の足に擦り付け、俺と再び会えた事を喜んでくれているようだ。


「ロミも久しぶりだな、少し大きくなったんじゃないか?」


 俺の問いかけに対し「ワンッ!」っと声を上げ返事をする。相変わらず賢い子だ。


 しかし、そんな彼女らと再開を喜びあっている場合では無いようだ──。


「──マサムネー! やっぱり来やがったか!?」


 キルは見知らぬ女性と共に、俺たちに向かい歩いてくる。

 彼の口振りからすると、やはり俺が来ることを予測して……。


「キル……久しぶりだな、ここに何をしに来た」

「──貴様に会うために決まってるだろ!? 誰もお前の居場所について口を割りやがらないからな。フラミリアに餌になって貰ったって訳だ! クックック」


 やはりか……彼女はてい良く利用された、っと言うことなのだろう。


「フラミリアが単純で良かったぜ。貴様が来るはずって言ったらノコノコ着いてくるんだからな」


 キルと謎の女性は、さらに距離を詰めてくる。

 これは不味いな……この場にいるのは六名と一匹。キルのあの様子を見るに、このまますんなりとは帰してくれそうにない……。


「キル……それ以上近づくな。魔物に囲まれるぞ?」

「はぁぁぁ? そんな事わかってるに決まってるだろ! それに、俺が貴様の言うことを聞くとでも思ってんのかよ!?」


 何を言っても無駄なようだな……。

 まったく五年も経ったって言うのに、全然大人になってないじゃないか。


「皆、一層に逃げ……!」

「──逃がすかよ!!」


 キルが足を上げ、強く地面を蹴りつける。

 すると地響きがなり、俺は音の発生源である背後を振り向いた。


「設置魔法……準備がいいじゃないか」


 一層にへと続く退路は奴の魔法による、そびえ立つ土の壁に阻まれてしまっていた。


 逃がしはしない……っと言うことだろう。


「なるほど……性格の方は成長は見られないが、魔法の腕はまた上げたようだな?」

「そりゃどうも。貴様に誉められても、なんも嬉しかないがな!」


 キルとの距離が徐々に縮まる。

 このままでは、魔物に囲まれてしまう……場合によっては全滅も免れないぞ?


「マサムネ、お前が死ねばレオナも考えを変えて俺のところに来るはずだ……」

「本当にキモい奴やな……そんな訳あるはずがないやろ……」


 そんなレオナの対応にキルは顔をゆがませるものの、その後直ぐ三日月を横にした様に口角を上げ、ほくそ笑んだ。


「酷いぜハニー!? 君がそんなだから、今からマサムネは死ぬことになるんだぜ?」


 壁を背に立つ俺達に、キルは歩み寄る。

 意図的に発生させる気か……魔物の大量発生を!?


「さぁ──祭りの始まりだ !」


 キルが近づくことによって、ダンジョンの地面から次々と魔物が現れ、俺達を取り囲んで行く。

 十……二十……いくらレオナ達でも、これ以上増えたら手に終えなくなる!!


「──くっ! 致し方ない。このままで

は全滅する……」


 俺はアーセナルから盾を取り、剣を鞘から引き抜く……。

 このまま素直に共闘……などは考えられないな。

 魔物との戦闘中、キルからの攻撃を受けるのが一番危険だ。

 

「マサムネ、何処に行くきやねん──!」

「──レオナ、フラミー、サクラ!! 奴は俺は引き付ける。君らは魔物倒し、あの女性の相手をしてくれ……」


 このまま共に入れば、間違いなく全滅する。

 キルの狙いが俺であるなら、俺がここから離れれば奴もついてきて、魔物もこれ以上増えなくなるはずだ!!


「無茶や! マサムネ一人じゃ、キルケーには勝てやせん!」

「時間稼ぎ位してみせるさ……君達は魔物とあの女性を倒した後、俺の応援に来てくれ。それが全滅をしない、唯一の方法だ」


 それだけ伝えると、俺は皆から離れるよう走り出した。


「キル、俺が相手をしてやる!」

「やっと動いたか……マサムネ!!」

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