第41話 マサムネとキルケー

 構えた巨大な盾で、生まれたばかりの魔物に体当たりをしながら突破口を開く。


 後続から着いてくるキルは、盾で飛ばした魔物を炎で焼き払いながらも、俺を追いかけ走ってきた。


 俺は後ろを気にしながらも、皆から距離を取るためキルから逃げるよう切り立つ崖の縁を走る 。


「──くっ! 降りれる所は無いのか!? 障害物が多い森の中なら、あるいは!」


 単純な足の早さなら“祈る者”の彼に負けはしない。

 問題視する部分は、キルの魔法から逃げ切る方法だ!


「おいおいマサムネ、どこまで逃げる気なんだよ!?」


 後少し、後少し逃げ切れば……。


 キルが本気なら、背中を向けた時点で恰好の的だろう。油断している……今しかない!


 しかし、奴はそんなに甘くは無かった。

 森林へと繋がる斜面を目前としたその時だった……。


「──くっ!」


 目の前の斜面を、突如巨大な氷柱が道を塞ぐ。──これは! キルの魔法か!?


「必死だなマサムネ。森の中なら逃げきれると思ったんだろうが、止めておいた方がいいぜ……森と共に消し炭になりたくなかったらな? くっくっく」

「キル……貴様、どれだけ外道なんだ?」


 考えが甘かった……顔を見ればわかる。

 確かに今の奴なら、森を焼き払うぐらい本気でしてしまいそうだな。


「マサムネ、レオナとの貴重な時間を奪ったことは万死に値する……簡単には殺さんからな?」

「お前がレオナに構って貰えないのは、俺のせいじゃないだろ? 八つ当たりとは相変わらずタチの悪い奴だな」


 本当なら、煽るなんてもっての他だがな。

 しかし、嫌がるレオナにこれ以上付き纏うのは許せない……鼠が、猫を噛むと言う事を嫌と言うほど教えてやる!


「あぁ、タチ悪くて結構。だから無力な貴様をほふろうが、まったく抵抗がないな!?」


 キルが右手の杖を俺に向け、何かを呟いた。

 すると、やつの前に巨大な火球が現れ、それを飛ばしてきたのだ。


「吹き飛べ──マサムネ!!」


 くそ! あんなもの、盾なんかで受けたら一溜りもないぞ!?

 咄嗟の判断で俺は回避行動を取り、火球を避けきった……ハズだった。


「──ガハッ!?」


 背後から、強い衝撃と石を投げられた様な痛み、激しい熱気が俺を襲った。

 それに吹き飛ばされ、膝を着いてしまう……。


「はっはっは、ザマァーないな!」

「くっ、完全に避けたはず……」


 攻撃を受けた背後を見ると、先程の氷柱に火球が当たったのだろう、氷柱の上部は砕け、中央には半欠けの穴が開き、火球はその氷の中でいまだ燃え残っていた。


「水蒸気爆発か……」


 わざと避けれる様に火球をほかったのか!?

 油断しているところを水の気化による爆発を利用して……。


「おいおいマサムネ、直撃した訳じゃないんだ、早く立てよ。まだ、遊び足りねぇよ!!」


 俺は剣を地面に立て、それを支えに立ち上がる……。

 キルの奴、相変わらず魔法の行使が早い。


 奴の戦闘スタイルは十分理解している。

 設置型の魔法と高速詠唱を得意とし、そのどれもが人を殺すには、十分すぎる程のカリョクを出すことができる……。


 立ち上がり、盾と剣を構える。これは、どう考えても勝ち目はない。

 キルの奴、敵に回すとこれ程まで厄介な相手なのか……。

 

「くそ──なるようになれ!」


 俺はキルに向かい走る。

 唯一勝てる方法があるとすれば、奴の懐に入ることだ。


 いくら詠唱が早いとはいえ、近接戦闘に持ち込めば余裕を奪えるはず!?


 俺の突撃に合わせ、キルは後ろに下がりながら、地表から次々と氷柱を作り出す。


「マサムネ……こんなもので死ぬなよ? アイスピラーズ!!」


 魔法名と共に氷柱の先端は折れ、突風と共に氷で出来た無数の巨大な針が俺を俺に襲いかかったのだった……。



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