第24話 感傷的

「──懐かしいです。最後にこの箱庭に来たのは、何年ぶりだったかな?」

「あぁ、確かに懐かしいな……」


 あの後、何度か魔物に襲われるものの、サクラの活躍により、難なくダンジョン突破することに成功する。


 ダンジョンを抜け、第一の箱庭に到着した頃には、太陽は沈みかけており、夕焼けが炭鉱の箱庭を紅く染めていた。


「こちら側は、少々さびれてしまったか?」


 昔は今とは比べ物にならないぐらい活気付いていた町並みだったのだが、第二の箱庭の発見の為か?

 移住民が増え、人口低下の一途を辿ったのだろう。


 当時はそれこそ、すし詰めになるほどの人が……って、それは流石に言い過ぎか。


「マサムネさん! 見てください、子供です、子供があんな沢山いますよ──!」

「──な、なんだと!」


 サクラの視線の先には、何人かの子供が集まっており、夕焼けの中伸びる影で影踏みをして遊んでいる光景があった。


 それを見て「……ほ、本当だ」っと、衝撃を受ける。


「……そうか! 向こうへの移り変わりで人工が減ったから、子供を作る許可が降りているのだな?」


 俺達は閉鎖的な世界で暮らしている。

 その為、人工を過度に増やすことができない。

 結婚をした後、ギルドへ申し込みをし、許可が降りて初めて子作りをすることが許されるのだ。


 ルールを守らないものには、かなり重い罰則が下される。

 そして、その許可も余程の運がない限り通らず、夫婦の大半は子供を授かることを諦めるほどだった……。


「マサムネさん。複雑そうな顔してますね? もしかして子供は、嫌いだったりするんですか?」

「いや、嫌いじゃないよ。むしろ子供は好きだ、扱いにも慣れている」


 そう言いながら、俺はサクラの頭をポンッっと撫で、彼女の先を歩き始めた。


「……んっ? って、今私を子供扱いしましたね!?」

「──さぁ、何のことだかな? それより先を急ごうか、日が暮れてしまう」


 サクラにつつかれながらも、俺は笑いながら歩く。

 その様子を子供達に見られながら、その隣を俺達は通り過ぎる。


 道行く地面には、所々トロッコのレールが走り、レンガ作りの建物は、その多くが煙突を持ち、至る所がすすで黒く汚れていた。


 こちら側のダンジョンの一層、二層から採掘されるのは、主に金属の原石ばかりで、いにしえの時代で言うところの石炭などは出てはこない。

 この町の人々は魔物を倒し、その素材と魔石で熱を生み、金属を溶かし、それを加工して生活してきたのだ。


「ねぇ、マサムネさん。シャルちゃんにも、何かお土産を買っていきませんか?」

「ん? 悪くない提案だが、それはまた明日だな」


 町の中央にさしかかると、剣と盾の看板を掲げる、一際大きな煙突が特徴の建物が姿を表した。


「ほら、目的地も見えてきた事だしな?」

「武器屋……ですか?」


 そう、武器屋だ。懐かしいな、ここに来るのは何年ぶりだろうか?

 ここに足を運ぶだけで、思い出や未練を走馬灯の様に思い返してしまう。


 夕焼けのせいで、少し感傷的にでもなっているのかもな? 今思い悩んでも仕方ないだろう。ただ、ただ──。


「──彼女は、元気にしているのだろうか?」


 俺は独り言の後、深い深呼吸をし覚悟を決める。

 そしてじっと見つめ、返事を待つサクラの問いに答えることにした──。


「──あぁ、飛びっきり腕の立つ鑑定士が切り盛りする。箱庭一の武器屋だ!」


 っと、俺は胸を張り、誇らしげに答えたのだ。


 

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