第23話 そこに、今だ知らぬダンジョンが

◇ ◇ ◇ ◇ ◇


「──サクラ、下がれ! こちらに来るんだ!」


 プルミエール第一のダンジョン二層、遺跡型。

 謎の遺跡が立ち並ぶ道を、俺とサクラは順調に進んで居た……っと思いきや、そう都合良くは事が進まなかった。


 遺跡と遺跡を結ぶ、石造りのトンネル差し掛かると、その前方を塞ぐかのよう、巨大な木の化け物が行く手を遮ったのだ。


 護衛である彼女は颯爽と飛び出し、瞬ばたきの間に二度、三度攻撃を与えるたのだが──。


「──か、固いわね……この剣ショートソードじゃ、歯が立たないわ!?」


 なに、剣だけに歯(刃)が立たないだと?

 中々に面白い事を……いや、言っている場合ではない。


「サクラ──これを使え!」


 アーセナルにぶら下げていた戦斧せんぷを引き抜き、サクラにその柄を向ける。


「本当……何でも出てくるのね!?」

「いや、出せるのは持っている物だけだ」


 彼女は剣を納め、戦斧を手に取る。

 軽々と肩に担ぐと、そのまま一目散に魔物の元へと走っていった。


 木の魔物は、枝を振るいサクラに攻撃を試みる。

 しかしサクラはそれを、戦斧の柄を短く持ち、一撃……また一撃と見事に枝を落としていくのだ。

 そして、魔物の懐に入りながら──。


「このぉぉ! これならどう!」

 

 短めに持たれていた柄を、振りかぶりながら目一杯長く持ち変える。

 先端は遠心力と相まって、その刃を勢いよく、そして木の魔物の幹に、深々と突き立てる事となった!


 魔物からは叫ぶ声は聞こえない。

 しかし葉を散らす魔物が見せるその姿は、彼女の攻撃が効いていると確信を持つには、十分な結果だった。


「──まだまだ!」


 抜いては振るい、抜いては振るう。その姿をみると、戦闘……と言うよりは木の伐採をしているようにしか見えなかった。


 枝の大半を失い、幹がえぐれた木の魔物は、葉の色を緑から茶色に変え、いつしか動かなくなっていた。


 しかし彼女手は止まらない。斧を使い、中から何かを探し出す様に繰り返し打撃を与える。


「──マサムネさん。魔石、ありましたよー」


 笑顔でこちらに手を振る彼女、その何気ない表情が少し……ほんの少しだけだが、恐ろしく感じた。


「それにしても、よくこんな物まで準備してましたね?」

「あ、あぁ……木を倒すには、昔から斧と相場が決まっているだろ? このダンジョン出てくる魔物は調べがついているからな」


 今考えると、魔物の出現はダンジョンの性質に大きく影響することが多い気がするな……。


 洞窟型ならコウモリネズミなどが多く、遺跡型なら、木や鳥。あまり御目にかかったことはないが、ミイラや動く彫刻などの目撃例もある。


 まるで、そのダンジョンに適応した魔物が、何かの意思でダンジョンから産まれている、そんな気がした。

 ダンジョンが生きてる説……あながち間違いでは無いかもな?


 そんなことを考え方ていると、木の魔物はその場でダンジョンに飲み込まれていく。


「そう言えばマサムネさん。ここの遺跡、どうして飲み込まれないんでしょうか」

「ん? そんな事か、あれを見てみろ」


 ゆびさす先には、古びた謎の建築物が列なる。そしてそれには例外なく、ほかのダンジョンでも見られる血管にようなものが目に写る。


「あれが巻き付いているだろ? あれが無いのは飲まれ、巻き付いているのは残っている。つまり、この残っている遺跡はダンジョンの一部な訳だ。残念ながら、金にはならないけどな?」

「ダンジョン……ますます分からなくなりました」


 真剣に悩んで見せるサクラ、ただこれは、答えのない問題なのかもしれない。

 知ることは無駄にはならないが……。


「──分からなくてもいいんじゃないか?」

「……え?」


 この前とは矛盾する言葉に、サクラはすっとんきょうな声を上げる。

 そんな彼女に、俺は自身の美学を語ることにした──。


 「──その分からぬ答えを、一つ一つ解き明かしていく。それが、ダンジョン攻略の楽しみであり、ロマンじゃ無いだろうか?」


 実のところ、右も左も分からぬ頃から同じ“作る者”から「なんで、あんな得たいの知れないところに、ワザワザあんたが足を運ぶんだい?」っと問われたことがる。


 確かに俺達“作る者”は、ダンジョンで生きる術を元より持たない。

 学び、鍛え、工夫し、最後には己が力不足に絶望するのかもしれない。

 それが未攻略のダンジョンならなおさらだ。


 しかし、未知を味わったことにだけ分かる達成感と高揚感、それがそこにはあるのだ。

 それを知ってしまった以上、更にダンジョンを知りたくなるのは道理ではないだろうか。


 故に俺は、こう答えて来た──。


『──そこに、今だ知らぬダンジョンがあるから……』っと。


「あの……マサムネさん。もし私がまたダンジョン攻略を始めたら、その時は一緒に着いて来てくれますか?」


 俺は彼女問いに「あぁ……考えておく」と、曖昧な返事をする事しかできなかった。


 もし、俺がまた未攻略のダンジョンに挑戦する事があるのなら、それはきっと──過去の清算を終えた後になるだろうからな……。

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