第22話 オッサンは、見栄を張りたがる

「それにしても、本当にここは人が多いですね」


 攻略を目的としている彼女には、こちらをお目にかかる機会も少ないのだろう。


 第二の箱庭が見つかって早五年、こちら側に移住しているものも増えている。

 今後も、こちらの人工は更に増加していくだろう。


「あぁそうだな、第二の箱庭の冒険者。その中でも八割程はここに居るんじゃないか?」


 人が大勢入れると言うことは、魔物に囲まれる機会が減り、何かがあっても守ってもらえるかもしれない。


 命の安全性だけで言うなら、ドゥジエーム第二のダンジョンより、まずこちらのダンジョンが上だろう。


「それって、何人ぐらいなんですかね」

「いや、人数までは流石に分からんよ」


 ギルドなら把握しているかもしれないがな?

“作る者”からしたら、ここに居る人の数は、然程重要ではない……。


「ところで、マサムネさんの用事って何ですか?」

「なんだ、それを今聞くのか?」

「はい、今聞いちゃいます!」


 まぁ……彼女からしたら、無事に向こうに護衛を完遂する事が重要であって、どうして行くのかは、先ほどの俺のように重要ではないか。


 それに俺も、具体的な目的は彼女に説明していなかったな。


 俺はアーセナルに付いている、一番小さなポケットの中からあるものを探し出す。


「コレなんだがな」

「それって……」


 手に持ち出したのは、青く透明な石、ビー玉よりは大きく、拳骨げんこつよりは小さい、そんな大きさの石だ。

 そう、これは──。


「──あのゴーレムの額についていた石だ。何かが分からず売れなくてな? それを今から、腕の立つ鑑定士に見せに行くところだ」


 得たいの知れないものを高値で買うものはいない。それ所か、相当な安値を提示されるのは目に見えているからな。


「ん? でもあの時見たのは赤色だった──って、その為に私にお金を払ってまで第一の箱庭まで向かうんですか!?」

「あぁ、そうだが……何か?」


 先を歩く彼女は歩みを止め、頭を抱えため息混じりに呟いた。


「そんな理由じゃ、今回の報酬はマサムネさんからいただけないです……価値が分かったら売って、この前みたいに分配するんですよね?」

「分配はもちろんする。それと護衛の料金は君の働きに対しての報酬だ。それと、一度出したものを引っ込めさせないでくれ、格好がつかないだろ?」


 俺は目の前のサクラの背中を小突く。

 歩みを止める彼女に、前に進めと要求するように。

 

 そして、その手で動かぬ彼女の頭を撫でてやると、サクラは俺の隣を歩き始めた──。


「──オッサンはな、見栄を張りたがるものなんだよ。可愛い子の笑顔が見れるなら、安い買い物だ」

「な、なんでそうすぐ思ってもいない事を……本当、口説いているわけじゃ無いんですよね?」


 上目使いで俺を見る、サクラの動揺する姿につい笑みが溢れる。

 まぁ、素直な彼女が気を使う気持ちも分からぬわけではないからな……。


「どうしても、折り合いがつかないか?」

「つきません……マサムネさん、なんかずっと損してる気がするから。そんなの、そんなの仲間とは言えないです!」


 ……そうだよな? 本当の仲間なら、お互いに平等でありたいと思ってしまうよな。


「じゃぁ考え方を変えようか、これはビジネスだ。今後とも君は、ダンジョンで生計を立てるだろ?」


 俺の問いかけに、彼女は頷き答える。


「鉱石や爪、皮や牙は武器の素材にもなる。それを俺に君が、直接俺に卸してくれ、もちろん適正価格で買いとる。そうしてくれれば、またヨハネに脅迫されなくて済むからな?」

「……わかりました。出来る限り、マサムネさんの所に持っていく様にしますね?」


 パーティーを組んでしまえば、なかなか難しい条件だろう。

 ただ、こうでも言わないと、納得してくれそうにもないしな。


「──ほら、次の階が見えたぞ?」


 俺が指さす先には、二層へ続く鉄の扉と、一件の小屋が姿を現した。


 今回の移動では、この先が難所になる。お話はこれで終いだな。

 

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る