第29話 魅了
「ちょっとシャルちゃん! まって、まだ誤解が溶けてないよ!?」
私は彼女を追い、関係者以外立ち入り禁止だった部屋へと足を踏み入れた。
すると目の前には、アーセナルと呼ばれたバックがあり、その直ぐとなりには折れた大剣と、この前私が振るった折れた刺突剣アルマスが飾られていた。
この部屋の中は覗いたことがなかったけど、どうして折れた物をワザワザあんな風に飾って……。
目の前の大剣は焦げた様な汚れがついており、所々溶けている部分も見られた。
「剣が溶けている、のよね? ただ火に入れても、溶けまではしないはず……多分だけど」
アルマスと同じように保管されているってことは、これはマサムネさんがヘンテコなアビリティーで生み出した魔剣と呼んでいた物?
そんな考えが頭をよぎると、不思議とひとつの結論へと行き着いた。
「これってもしかして! 伝説のあの方が使ってた剣なんじゃ!」
十分に考えられる! あの時の様子から、アルマスみたいな剣を生みだすのが初めてだとは考えにくい。
以前にも同じことをして、それが必要になるなら、まずダンジョンの中のはず!
「それに、駄目になった剣がこんな風に大切に保管されてるのよ……マサムネさんはあのパーティーのメンバーで剣を握ってたのは、リーダーだった彼女だけって言ってたはず」
目の前にある剣を見つめると、自然と近くにより、手が延びる。
まるで、何かに魅了されている……そんな感じがした。そして──
『──ワレヲテニトレ、ソトヘモチダセ』と、聞こえた気がしたのだ。
「──サクラ、やめなさい!! 」
その行為を制止したのは、先程の掃除道具を片付け終えたシャルちゃんだった。
私はつい、手を伸ばしていた。
それを見て何をしようとしてたのか理解したんだろう。
彼女少しだけ怖い顔でゆっくりと歩みより、私を睨んだ。
「シャルちゃん、ちょっとだけ! ちょっとだけ外で振ったら元に戻しておくから!」
マサムネさんには悪いと思う。でも心配性で意地悪なあの人の事だ、私がコレに触れることを許してはくれない。
……そう考えると、不思議と自分の衝動が押さえきれなくなってしまった。
「サクラ──駄目! 止めなさい!!」
私は彼女が止める声も聞かず、それを固定していた鎖を外し、手に取り外へ駆け出していた。
振り返ると、シャルちゃんは怪我した足を引きずりながらも、私をおいかけてくる。
ごめん、シャルちゃん! これは私の憧れだから──!
何年も前から憧れていたあの人が振るった剣。そう考えると胸のドキドキが止まらない……異常な位に。
武器屋から飛び出した私は、その場で大剣を構えた。
急がなければ、シャルちゃんが来てしまう!!
私は深呼吸の後、折れた大剣を空に向け振り上げ、それを力一杯振り下ろした!!
振り下ろすと同時に、空気を焼く様なゴォォォ! っと言う音が体に響く……。
体の芯が熱くなり、体は震え、体からは汗が吹き出る。
「……重い」
重量だけの話じゃない……一振りしただけで分かる。
この大剣の所有者だった人の想いや、これを作った人の想いが。
折れている為確信は持てないが、剣の重心は持ち主に合わせて居るのだろう、先の方にあり、握るグリップ部分は持ちやすく工夫がされていた。
「──サクラ駄目でしょ! マサムネさんに怒られる前に早く戻しなさい!」
シャルちゃんが外へと出てきた、どうやら追い付いたようだ。
憧れていたのは間違いない……しかしなぜ、私は勝手に持ち出してまでこんな事を?
「うん……ごめんね、シャルちゃん。これは私が手にして良いものじゃなかったみたい。どうにかしてたわ」
本当にどうにかしていたと思う……ちゃんともとに戻して、後でしっかりとマサムネさんに謝ろう。
私は振り返り、武器屋の中に戻ろうと振り向いた──。
「──それウチのや! なんであんさんみたいな小娘が、それを持ってんのや!?」
突然聞こえた大きな声に振り返るとそこには、こじんまりとした可愛らしい女の子が立っていた。
その体に不釣り合いなツヴァイハンダーを両手に持ち、私を睨み付けたまま……。
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