第30話 小さき“戦う者”

「え、え~っとお客様でしょうか? 何か御入り用の物があるようでしたら、店内を見られてはどうでしょう……?」


 シャルちゃんは他のお客さんにもするような態度で、小さな少女に歩み寄る。


 ……商魂たくましいのは分かるけど、そんな小さな子供が武器屋に用って……。

 あー、もしかしたら彼女が持っている大きな剣を売りにでも──。


「──なっ!」


 すると突然、その少女は近づくシャルちゃんを突飛ばしたのだ!?

 予想もしない出来事に、彼女はその場で強く転倒してしまう。


「こら君! そのお姉さん怪我してるのよ? 突き飛ばしたら危ないでしょ!?」


 私は目の前の子供に注意をし、シャルちゃんに近づき、起こした時だった──。


「──っ!?」


 少女の視線は更にキツいものとなり、それを見た私に悪寒が走った。

 肉食動物と同じ檻にでも入れられた……そんな風にさえ感じてしまうほどの寒気だ。


「うるさいねん!! ええからその剣を寄越し、痛い目見たないやろ?」

「剣……何を言って!?」


 ツヴァイハンダーをこちらに向け、大声で威圧する少女。

 普通であれば、ただの虚仮威こけおどし程度に感じるのだろうが、何故こんな仔猫みたいな少女に私は恐怖を感じているのだろうか?


 気のせいでは無いかと、自分の手を見つめるものの、確かにその手は震えていたのだ……。


「……それより子供がそんなの振り回したら駄目でしょ? それを下げなさい。それは命を奪うものなの!あなたみたいな小さい子が振り回して良いものじゃないのよ!」


 説得を試みるも、どうやらそれは逆効果の様だ。

 少女は巨大な両手持ちの剣であるツヴァイハンダーを軽々と構える。

 その表情からして、引く気はないのだろう……。


「さっきから小さい小さいって……上等や!! 今のウチは気が立っとる、素直に寄越さへんなら、怪我しても知らへんで!?」


 ──や、やっぱり!? 


 私は手に持つマサムネさんの折れた大剣をシャルちゃんに手渡し、腰からショートソードを引き抜いた。


「シャルちゃん! これを元の場所に戻しておいて……彼女は私が相手をするから、中に入ったら鍵もかけて」

「でもサクラ、相手は子供よ! 普通じゃないかもしれないけど、子供なのよ!?」

「大丈夫、怪我はさせないつもり……でもあの子“戦う者”みたいだから、手加減出来るかどうか……」


 少女は、自分より大きな武器を軽々と振り回す……。間違いない、彼女は“戦う者”のはず!

 

「──早く行って!!」

「分かりました……気をつけて!」


 声をあげると同時に、シャルちゃんは店の中に駆ける。


「ちょい待ちぃ、どこ行くねん!」


 私はシャルちゃんを追いかけようとする少女に向かい走り出した!

 相手の方がリーチは長いが、その分初速は遅い……なるべく早く、相手の懐に入れば!?


 私は、少女がツヴァイハンダーを上段から振りかぶる中、ショートソードを逆風さかかぜ……切り上げるよう、下から上に向かい振るった!


 振り下ろされてさえいなければ、重さに違いはあれど、衝撃で少女の手から剣を引き離せるだろう……。


 そんな目論見の元振るった剣筋は、彼女が握るつば目掛け弧を描き、狙い通りそれにぶつけることができた──。


 金属がぶつかり、擦れ。けたたましい音を響かせる!!


 ──しかし、少女の手からは剣は離れることはなく、それどころか当たったことを物ともしない様子で、ツヴァイハンダーは振り下ろされたのだ!?


「──なっ!?」


 私は少女の一撃を、全力で回避する事を余儀なくされた……。

 武器の重量の違いだけの問題じゃない、この子は、単純に私より力が強い!


 地面を転がり攻撃を横に避けた私は、すぐさま少女の姿を探した。


 地面は先程の一撃で抉られており、振るったはずのツヴァイハンダーは既に、少女の肩に担がれていた。

 それはつまり、いつでも追撃が出来たことを物語っていたのだ──。


「──なんやなんや。あんたらが言う相手にその体たらくかいな?」


 気持ちの何処かで、彼女の小さな体に油断をしていた。

 なんて甘い……小さい少女だから弱いなんて理屈、何処にも無いのに!


 認識を改めないと……確実に負ける、目の前に居るのは“敵だ”っと。

 

「力だけじゃない……戦いなれている」


 立ち上がり、再び剣を構えた。

 殺すきで掛からないと……私が殺られる!!

 

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