第6話 休息とわだかまり

◇ ◇ ◇ ◇ ◇


 四人一組で、もしくはそれの人数で、ダンジョンに入らなければならない。

 そのルールは、ダンジョンの性質が大きく起因している。


 ギルドの研究者により一つの答えが導き出された。

 その答えとは──ダンジョンは生きている。そして、ダンジョンの動力源……つまり食事は──“命無き物”。


 “命ある者”を食べることは無いが、“命無き物”は無尽蔵に食べてしまう。

 ダンジョンとは、そんな摩訶不思議な性質を持っている。


 そして、もう一つ分かっていること。


 それは五つ以上、の命がまとまった場所にいると、ダンジョンは“命”に牙を向く。


 何処からともなく見ていて、まるでそれらを取り囲むように、魔物が、囲まれ……命を刈り取りに来るのだ。

 そして、命亡くなれば最後。その身はダンジョンに食べられ、姿形も残らない……。

 

 故に、ダンジョンコアが残りしダンジョンでは、認可を受けた四人一組、もしくはそれ以下の人数でのみ、立ち入りを許可するものとする。


◇ ◇ ◇ ◇ ◇


「──っとまぁ、以上が最近わかったダンジョンの研究結果らしい。読み聞かせる内容としては、些か退屈だったかな?」


 ダンジョンでの一層攻略も佳境かきょうに来たため、俺達は準備をかね休憩を入れている最中だ。


 サクラの武器を手入れしていると、突然坊主が──。


「──戦闘で役に立たないんだ、休憩ぐらい人一倍役に立ってみせろ」っと、言ってきた。

 俺は引率らしく、坊主達に学ばせる折角の機会なのでギルドの書物で学んだ知識を披露して見せた所だ。


「へぇ……今まで色んな物がダンジョンに飲まれていくのを見たことがあったけど、アレは食事の様なものだったのねぇ。勉強になったかも」


 冒険者なら誰しも目撃するダンジョンの食事。

 置きっぱなしや、回収が遅れたアイテム。魔物の死骸や死んだ冒険者の肉体……。


 触れさえすれば、何故か食事は収まるのだが……ほかって置くとそれは次第に、ダンジョンに飲み込まれ、跡形もなく消えてしまうのだ。


「つ、つまりわたくし達は、ダンジョンと言う生き物の腹の中に居る……っと言うことなのでしょうか?」

「あぁ。ギルドの見解では、そう言う事になるな」


 この話には“祈る者”の【シャル】も、興味を示したようだ。実際他人事ではないからな、そうも思うだろう。


「そんなもの、知っていてどうする!」

「さぁ、何の役にも立たないかもな」


 本当、一々突っ掛かってくる坊主だ。

 彼には何を言っても心には響きそうにないな……。余程自尊心が強いと見える。


「人の知識の大半は、役に立たないものばかりさ。しかしその知識も、知って困ることはないが、知らずに後悔することはある。俺はそう思うがね」

「……くっ!」

 

 口でオッサンに対抗するには、後二十年は早い。

 しかし一度関わった以上、簡単に死なれては夢見も悪いか。もう少しだけ、説教しておく事にしよう。


「知識だけではない。今こうやって俺が剣を研いでいる準備にしても、やらずに後悔しても、行って後悔することはない」


 ダンジョン内での休憩、それは体を休めるだけではない。

 休憩、食事、索敵はもちろんの事。傷の手当てに武器の管理、この後の行動についての打ち合わせなど、やることが多岐にわたってある。

 役割を分担し、効率良く動く。

 戦場では、一分一秒が勝敗を決めることもあるからな。

 

「サクラ……だったか? ほら、研ぎ終わったぞ」

「ありがとうございます。凄い……見事なまでにが立ってる……」


 その状況を、怨めしそうに見つめる坊主。

 どうやら、今のお説教は火に油だったか? 仕方がない……こちらから歩み寄るか。


「少年。君の剣も是非、研がせてはくれないか? 俺に仕事をさせてくれ」


 俺は手を差し伸べ、下手したてに出た。

 ダンジョンに居る以上、どれだけわだかまりがあろうが、責任は全うしなければならない。


 パーティーの為だけでない、何より、自分が──生き残るために!


「うるさい! 俺の剣に触るんじゃねぇ!!」


 俺の手は、坊主によってけられた。

 まったく、この坊主ときたら……これでも駄目か?


 その後、少年の装備だけを残し、パーティー皆の装備を手入れをした。

 

 大丈夫だとは思うが……後々の戦闘に、影響が出なければいいのだが。

 


 

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