第5話 信頼できる仲間

「──さっきの魔物、よく気づきましたね。実のところマサムネさんの声を聞くまで、あの奇襲は私も気づけませんでした」


 ロキ、シャル、俺、サクラの順で洞窟内を移動している最中。

 俺に話しかけているのをバレないようにする為なのか、距離を詰め後方から話しかける声が聞こえてきた。


 あの奇襲とはなんの事だ……もしかして、少年が襲われた奴? あれは奇襲と言えるほどのものなのだろうか?


「年の功だよ、魔物も何も考えずに襲ってくる訳じゃないからな」

「それってつまり……どう言う意味でしょうか?」


 ……驚いた、まさか聞き返されるとはな?


 やはり彼女は他の“戦う者”とは、少しばかり違うようだ。“作る者”の事を……下に見ようとはしない。


「予測するのさ。ただ索敵するだけじゃない、自分が魔物なら、何処から奇襲をするか。それを頭の片隅に置いておくだけでも、注意して見るべきポイントが分かる」

「予測……ですか?」


 真剣な声だ……探索中なので、わざわざ振り向いて確認まではしないが、彼女の声色で何となく分かった。


 彼女は──逸材かもしれない。


 物事を偏見の目で捉えず、必要な情報を自分の糧としようとしている……。


「……年齢もることながら、将来有望か……死なせるには惜しいな」


 呟いた独り言に「何か言いましたか?」っとアーセナル引っ張られた。

 何て言うか、年の離れた妹がいたら、こんな感じなのかも知れないな? 


「おほん! 余計なことを言うつもりは無かったが、一つ気になったことを伝えよう。四人一組でこの陣形はいかがなものか?」

「え、おかしいですか!?」


 声が大きい! 話しているのがバレると、また少年に睨まれるだろ? それに魔物に自分達の存在を知らせるようなものだぞ?


 裏を振り返り、口に指を当て「シーッ」っと静止を促した。

 それを見たサクラは、自分の口を手で押さえた。


「今のように真っ直ぐ一列ではなく、なるべく菱形ひしがたや四角に陣を取る。そして各自が索敵する方向を決めておけば、より細部まで、遠くまで注意をする事ができる」


 特にこのパーティーには遠距離攻撃持ちだろう“祈る者”がいる。

 人為的にトラップが仕掛けられている訳でもない。縦一列に歩いていたら、彼女の射線を奪ってしまう。


 ただこの方法は、自分が視認しない空間をに作ると言うことと等しい──つまり。


「心から信用出来る“仲間”なら、っと言う話だがな」

「心から信用できる仲間ですか……それってかなり厳しめな内容じゃないですか」


 彼女に向かい、肩をすくめてみせた。


 自分で言ってはみたものの、このメンバーでは俺もお断りしたい方法ではあるな。


「あなたは一体何者なんです……? そしてどうして、私にその様な事を教えてくれるんですか?」

「俺か? そうだな、“作る者”……だった男さ」


 しまった、つい嬉しくなって余計なことを……。


「何ですか、それ。意味深ですねぇ?」と、サクラが横に並び、人の顔を覗き込もうとする……。


 自分から忠告しておいて悪いが、あまり追求されるのも面倒くさいか……話を変えておこう。


「後、君にお節介を焼く理由だったか?」

「は、はい。それも気になってましたね!」


 それも……か、素直な子だ。

 お節介の理由を説明しようと考える。どう言ったら良いものだろうか……。


 彼女は焦らされるのが嫌だったのか、上目遣いをしたまま、俺の腕を何度もつついてくる……。


「あ~……オッサンはな? 素直で可愛い子には、つい甘くなってしまうものさ」


 咄嗟とっさにに出た台詞がこれたとはな……。

 こんなむず痒くなるような言葉を平気で言えるようになるとは……歳は取りたくないものだ。

 しかしそれが、功を奏したのだろうか?


「ふっふっふ。なんですかそれ、もしかして口説いてます?」


 声を必死で圧し殺すように、クスクスとサクラは笑顔を見せた。


 どうやら、誤魔化すことには成功したようだ。

 まぁ、あれだ……これはこれで、あらぬ誤解が生まれなければ良いのだが。


 しかし残念なことに、前を歩く坊主がこちらを睨んだのを、俺は見逃すことはなかった。


 何て言うか……これは、面倒事の予感しかしないな。





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