第4話 ダンジョン突入

 ダンジョンの入り口、それは地下へと延びる未知の洞窟……。


 それを覆い隠す建物は、今までに例外なく巨大な人工物となっている。

 石を積み上げられ作られた複数階建ての建造物は、まるで小さな砦のようだ。


 ただ普通の建物とは違う。床の所々には血管のような線が張り巡らされ、時折脈を打つように光輝いている。


「ようこそ、ドゥジエーム第二のダンジョンへ。中に入られる方々は、【ギルドカード】の提出をお願いします」


 ギルドの制服に身を包んだ男が話し掛けてきた。


【ダンジョンフロント】通称フロント。

 ここでは目の前の受付、医療設備にアイテムの販売。宿に食事の提供など、多くのサービスが行われている。


 しかし利便性が良いためか、外より何割りか値段が張る。

 そして無数のギルドの職員が職務に当たっており、二十四時間明かりが消えることはない。


 少年達は各自、受付の彼の指示にしたがいギルドカードを提出する。俺も彼等の後を続くように、カードを提出した。


「カードだ、頼む」

「はい、お預かりします、少々お待ちください」


 ギルドカードとは登録者皆に配られる身分証だ。ダンジョン入る際に提出し、出る時に受け取る。

 そうすることで、許可無きものが入らないようにするのと、安否の確認も兼ね備えている。


 ダンジョンの入り口は必ず受付があり、ギルドの職員が在中し管理を行っているのだ。


「マサムネ様、ロキ様、サクラ様に、シャル様でよろしいですね?」

「はい、間違いありません」


 坊主が代表して動いていると言うことは、このパーティーリーダーは彼なのだろ……。

 目をつけられているしな、余計な口出しはせず発言は最小限にしよう。世話をやく義理もない。

 

「それじゃ~行こうか?」


 少年はダンジョンに繋がる扉を開き、少女二人を先にいかせた。

 その後を続き、俺もダンジョンへと足を踏み入れる。


「分かってると思うが、くれぐれも足を引っ張るな……」

「──あぁ、分かってる。最低限は働いて見せるさ」


 すれ違い様に掛けられた声を、割り込むように遮る。いい加減しつこいだろ……。


 目の前を黙って通りすぎ、階段を下っていく……。後ろからは「チッ!」と舌打ちが聞こえた気がした。


 階段を下りきった所で、サクラとシャルが俺達が降りてくるのを待ちながら、装備の確認をしている。


「ダンジョン──久しいな……」


 地下であるはずなのだが、そこには薄暗く輝く青色の光源が存在する。

 壁に浮かぶ血管のような物……それが発光しているため、十分とは言い難いものの移動するだけなら不便はないのだ。


「ベーシックな洞窟のダンジョンか……」


 ついている……と言えばついているし、そうでないと言えばそうではない。

 ダンジョンは鉱山、草原など、いくつもの種類があるとされている。


 この洞窟タイプは見通しが良く、魔物から奇襲を受けるケースがのが特徴だ。


「それじゃぁマッピングをシャルに任せて……」

「──いや、俺がやろう」


 三人が俺を注目した。

 しまったな、出すぎた真似だっただろうか?


 何処から魔物が襲ってくるか分からないダンジョン。それなら戦闘員より、非戦闘員がマッピング等の雑務をこなすのが定番だと思うのだが。


「あー、暗いようなら灯りもつけたいと思うが……どうする?」

「──勝手にしてくれ! マップ、書き損じるなよ!」


 気を使ったつもりだったんだけどな? 早速、出すぎた真似だったらしい。


「そうか、それでは灯りもつけさせてもらおう」


 一言だけ返事をして、ランタンに灯をともした。それをアーセナルにぶら下げ、紙とペンを取り出す。

 そして、目の前を一列縦隊で歩いていく彼等の、最後尾をついて歩くことになった……。



◇ ◇ ◇ ◇ ◇



「邪魔だ──消えろ!」


 坊主の声がダンジョンに反響する。


 何度目かのダンジョン内での戦闘。

 彼の大剣は一撃の下、悪魔の魔物インプを──両断した!


 なるほど、大剣による戦闘技術は目を見張るものがある。はたから見れば十分な結果とも見えるが……しかし──ただそれだけだ。

 

「どうだ、俺一人でも十分ってのが分かっただろ?」

「あぁ、凄い凄い」


 俺は俺で、淡々と仕事をこなしていく。倒した魔物の死体を解体して、最低限の部位と【魔石】を回収する。


 本来であれば魔物の解体は重労働だ。

 獣の類いで例えるなら、体を釣り上げ、穴を堀り、内蔵をその中に落とす。その後皮を剥ぎ、肉を削ぎ落とすなど、多くの作業をしなければならない。


「これぐらいでいいか?」


 しかし今回は、先に進むことを目的としているため、集める素材は指示のあった。魔石程度で済ませている。

 回収後は邪魔にならない様、残りの部分は隅にほかる。


 しばらくすると、魔物の亡骸は徐々にダンジョンに飲み込まれ、姿を消していく。


「まったく、いつ見ても不気味なものだ」


 ぼやきながらも素材を袋づめし、アーセナルの中へと突っ込む。そして、歩き出そうとしたその時だった。

 視界に入った坊主の傍らから、魔物の影が見えたのだ。


 ──気付いていないのか! 


「少年! 十時の方向、上方四十五度。敵がいるぞ!」

「──なっ!」


 俺の声を聞いた少年は、大剣を抜き攻撃に転じた。しかし慌て振るわれた大剣は、洞窟の岩場に当たり振り抜かれることは無かった。


 それを好機だと思ったのだろう、魔物は小さな翼を羽ばたかせ、一目散に飛び、坊主に向かい爪を光らせた。


「──っ!!」


 坊主は剣を手放すことで、魔物の奇襲で傷を負いながらも何とか回避することができた。


「──ロキ君、しゃがんで!」


 サクラは俺の声を聞き、瞬く間に魔物の影に距離を詰めていた。

 そしてショートソードによる抜刀の一閃で、見事魔物を両断……の息を仕留めたのだ。


「わ、悪い。助かったよ……サクラ」


 サクラは剣についた鮮血を振るい飛ばし「気をつけてくれれば良いわ」と、刃を鞘へと納めた。


 へぇ、なるほど。このパーティーのかなめはリーダーであるロキではない。

 一件地味にも見えるが、器用に立ち回っているサクラだろう。

 彼女が人一倍索敵し、前に後ろに動くことで多くの死角をカバーしているのだ。


 “祈る者”の少女は「ロキさん、じっとしていて下さい!」っと、坊主に近づき魔法の詠唱を始めた。

 程なくすると、彼女の持つロッドに淡い光が灯り、坊主の傷はみるみるうちに塞がっていく。


「き、貴様が──余計な事を言うから!」

 

 完全に八つ当たりだった。


 大見得を切った直後のためか、自分のプライドが傷付いたのだろう。

 怒りの矛先を俺に向けても仕方がないだろうに。


 きっと、自分でもその事は分かっているのだろう。

 その後立ち上がったロキは、不穏な空気のまま、黙って先行するのであった……。


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