第18話 憧れ

 それにしても、キルと一緒にダンジョンから出てくるとは……。

 坊主の奴、偶然救助でもされたのだろうか? 


 キルと坊主。二人の事を考えていると、服を引っ張られる感覚が──。


「──ん? サクラ、どうした?」


 服を引っ張られた方を見ると、サクラが何故か俺の顔をじっと見つめ、目を輝かせていた。そして──


「──あ、あの。その、キルケーさんって、どなたなんでしょうか!?」


 なるほど。サクラは俺が居た、あの時のパーティーに憧れを抱いていたな。

 今の話を聞いていてそれを察したのか。


「あぁ、キルケーってのは、俺の前居たパーティーメンバーだ」

「やっぱり……。じゃぁ、その人もダンジョン攻略者の一人のですよね──?」


 サクラが質問するのと同時に、ヨハネは突然立ち上がり、机の上にある書類をひっくり返してしまった。

 彼はその事……っと言うよりは、別の事に驚いた様な表情を見せる。


「──サ、サクラ君はマサムネの秘密を知っているのか!?」

「あぁ、不本意だが彼女には知らせたよ。命を助けてもらったお礼をかねてな」


 ヨハネは「そうなのか……」っと椅子に座り込み、背もたれに体を預け天井を仰いだ。

 そして手で顔を覆うと、急に声を出し笑い始めたのだ。


「はっはっは。いや……今日は本当に驚きの連続だ。キルケー君が人助けすることにも驚いたけど、まさかマサムネが、誰かにその事を話すなんて」

「あぁ、今まで俺が口止めをしていたのに……すまないな」

 

 そんな俺の謝罪の言葉を聞き、ヨハネは手を避け、にっこりっと微笑んで見せた。


 なんだかんだ言っても、この狭い箱庭で五年間姿を眩ませる、それが出来ていたのは、すべて彼のお陰だからな。


「構わないよ。……って事は、君も少しは考えを改めたのかな?」

「あぁ……五年も掛かってしまったがな? この子達のお陰で、心の準備がやっとできたよ」


 隣に座るサクラの肩をポンポンと二度叩いた。彼女は自分を指差し「私ですか?」っと子首をかしげる。


 諦めず、前だけ向いて歩いていた若い日の記憶。

 新たな発見による胸の高鳴りや、美しい世界に胸を打たれる感動。


 そして、なにより──自らの命を賭けてでも、仲間を助けたいと思う強い思いを……俺は思い出す事ができた。


「そうか……それはよかった。それじゃー彼女達にも、今後は黙っている必要は無いんだね?」

「あぁ世話をかけた。その……二人は、まだ俺の事を探してくれているのか──?」


 過去の伝説となったパーティーは、四名。

 “作る者”の俺。先ほど話題に上がった“祈る者”のキルケー。そして、それとは別に。


 ──“祈る者”の少女が一人がと、リーダーであった“戦う者”の少女、計四名で構成されていた。


「──勿論、会う度に聞かれるよ。【マサムネは見つかったんか?】【……マサムネ様はどこ?】って感じでね?」

「そうか……二人は未だに……」


 未だに俺を探して居るのか……。

 きっと逃げた俺を恨んでいるんだろうな、会えば何を言われるか……いや、殴られぐらいするかもな。


 でも──もう逃げやしない! 誠意を込めて謝ろう……。


「──マサムネさんマサムネさん!」

「どうした? 何度も呼ばなくても、マサムネはここに……」


 分かりやすいな……目は口ほどに物を言うとはこの事なのだろうか?

 大きな瞳をさらに大きく見開き、キラキラと輝かせるサクラが、ソファーを立ち俺を見下ろす。


 まるで犬みたいだ。このままだと飛び付いて来そうだな……やむを得ないか。


「分かった分かった、教えてやる、教えてやるから余り寄るな」


 言質げんちを取ると、サクラは良い子にソファーに座り直した。そして、まだかまだかとソワソワして見せる。

 

 そのやり取りを見て、ヨハネが含みのある笑いを見せているが、今は無視しよう。


 俺はため息混じりに、サクラに説明することにした。


「察しの通り、その内の一人が君が憧れていた伝説のパーティー。そのリーダーだよ……」っと──。

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