第14話 過去

「──そんな……ロキさん」


 シャルは、背中で溜め息とも取れる声で──いや、俺には想像できない程の複雑な感情が聞いてとれた。


 頑丈な鉄の扉を前に、二人は希望を失ったかのように口を閉ざし、重い空気が彼女達から漂うのだが……。


 何て言うか、これは──言い出しにくいな? しかし、言わないわけにも。


「……あぁ~おほん。大丈夫だ二人とも、問題ない。シャル、アーセナルの中に鍵があるはずだが、取ってくれないか?」

「「…………えっ!?」」


 なにも同時に驚かなくても……。

 

 突然の発言に二人の反応がない、俺の発言の意味が汲み取れないのだろうか?


「シャル、君の腹部辺りにポケットがあるだろ? そこにコレの鍵が入っているはずだ」


 そう言いながら、鉄の扉をノックして見せる。

 俺の指示にアーセナルの中を探すシャル。そして「ありました……」っと、三本の鍵を取り出したのだ。


「──な、なんでマサムネさんがこの扉の鍵を持っているんですか!」

「なんでって。まぁ、この扉はうちで作った物だからな。スペアの鍵をとっていてもおかしくは無いだろ?」


 二人は二度目の絶句をした。サクラに関して言えば、叫んだまま開いた口が塞がらない……っと言った感じだろうか。


「本当に……本当に何者なんですか、マサムネさん」

「先程約束したからな。帰りながらでも話す」


 シャルから受け取った鍵を使い、解錠作業を始める。まったく、誰がこんなめんどくさい物を……って、俺だったな?


 ──ガチャリ。


「さぁ、開いたぞ」


 鍵の開いた巨大な二枚扉を、開けて見せる。

 扉の先には、来たときの洞窟型の一層が姿を現した。さて──。


「──これだけは言っておこう……聞いた所で、何も楽しいものじゃないぞ。それでも聞きたいのか?」


 俺の問いに、サクラは黙って頷いた。

 彼女の目は好奇心に満ち溢れ、キラキラと輝いている様だ。


「そうか……分かった。すまないがサクラは引き続き前線を頼む、俺は索敵を協力しながら、君に話しかけよう」

「うん、分かった行きましょう」


 俺の指示に従い、サクラは警戒をしながら先導してくれる。

 さて、彼女になんて説明したらいいんだろうか……?


 先を歩くサクラに、来たマップを確認しながらも、指示を出し、空いた時間を見計らい話しかける。


「──俺は昔、とあるパーティーと共に、君達と同じダンジョン攻略を目指す、変わり者だった」


 昔話に花を咲かせる……って内容でもないな。まさか、こんな話を誰かにする時が来るとは。


「それって……もしかして」

「あぁサクラ──君の想像通りだろう」


 そう……そしてそれは、俺が目を背け続けてきた過去。

 そして先程。ほんの少しだけど、後悔以外の感情が芽生えた……そんな恥ずべき過去。


「君が憧れている、英雄の少女。そのパーティーの“作る者”それが俺の正体だ」

「それなら……それならどうして、貴方はここに居るんですか? 他の方は!?」


 痛いところを……まぁ、彼女に憧れているサクラなら、そこは気になっても仕方ないか。


「俺も、ロキと言ったら坊主と同じなんだよ」

「ロキさんと……同じですか?」


 少し事情は違うけどな? 俺が彼に抱く嫌悪感が強くなっている、それは鏡写しの自分を見ている気がするのかもしれないな。


 でも、五年も逃げ回ったんだ。いい加減向き合わなければならない……。


「俺も逃げ出してしまったのさ……恐怖からな?」

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