第13話 本来の笑顔

「シャル、足の具合はどうだ。歩けそうか?」


 俺達はお互いの健康状態を確認しながらも、帰る準備を進めていた。


 砕けたゴーレムの破片は、額にあった赤い石だけが残り、それを打ち倒した魔剣アルマスも、砕けた刀身以外を残し、ダンジョンに飲み込まれていた。


 ダンジョンの食料にならなかったその二つは、貴重な素材だ。何かの役に立つかもしれない。優先に持ち帰らねばな。


「は、はい。止血は何とか出来ました……ただ、歩くのしばらく難しそうで」

「そうか……些か傷が深かったようだな」


 魔法と言えど、完治は難しいだろう。それに精神面も……。


「しかし、命あっての物種とも言うしな。状況は良くないが、無事でよかった」

「はい、ありがとうございます。……あの、つかぬことをお伺いしますが、マサムネさんはロキさんが無事に帰れたと思いますか?」


 こんな時に自分達を裏切った男の心配とは……どうやら彼女も変わっているらしいな。


「足手まといの俺も居ないしな、坊主一人なら走ってでも逃げおおせるんじゃないか? それより、無理して気丈に振るまう必要は無いぞ。まだ痛むのだろ?」


 額に汗を浮かべながらも「そんな事、言ってられる状況でもないですしね」と、痩せ我慢を見せる……。少しばかり心配だな。


 今だけじゃない、ダンジョンで生計を立てていた彼女達だ、今後の彼女達の事を思うと少々居たたまれない気持ちにもなる。


「あ、あの。マサムネさん?」

「どうかしたか?」

「そ、それですが、治療いたしましょうか? 手形……残ってますよ」


 シャルは、先程の惨劇をの当たりにしていたのだろう。

 言葉を濁し、俺の頬を指差すのだが……半笑いになっているのが隠しきれて居ないようだ。


「べ、別に大したことはない…………。あー、そんなにくっきりとか?」


 顔から火が出るとは、こう言うことを言うのだろうか?


 シャルは自分の口許を覆い「はい、くっきりとです」と、笑って見せた。


 先程までは、この世の終わりのような顔をしていたのにな……それに、俺に対しても少しばかり心を許してくれたようだ。


「──良いのよ、自業自得なんだから」


 サクラが俺に冷たい物言いをする。未だ頬を膨らませて、いくらか怒っているようにも見えた。

 

 サクラの剣も、坊主が使っていた大剣も、ダンジョンに飲み込まれたため、俺は代用品をサクラに渡した。

 彼女は今、それを試しに振っているようだ。


「何よ、しっかりとしたって……。ごく普通の店売りのチェーンメイルなのよ? あんな感想……まるで私のが小さいみたいじゃないの」


 剣を納めたサクラが、胸元に触れ小声で呟くのが聞こえてしまった。


 あぁ……俺は、知らぬまに彼女のデリケートな部分に触れてしまっていた様だ。

 これ以上余計なことは言うまい、長年の勘が告げている──もうそこに触れてはならないと。


 さて、シャルはまともに歩けそうにないな……やむを得ないか。


「マサムネさん──何をして!」


 アーセナルの中から一つ、背負うタイプのバックを出すと、その中にアーセナルのアイテムを移していく。

 そしてそれとは別に、重要度の低いアイテム捨て、ダンジョンの肥やしにしたのだ。


「今から大きな物を詰めるからな、余計な荷を持っていたら窮屈だろ?」

「えっと、その大きな物って……」


 先程とは打って変わって、シャルの顔が引きつったもになる。


「ん、なんだ。説明が必要か?」

「い、いえ……察しがついたので……」


◇ ◇ ◇ ◇ ◇


「──マサムネさん、そのバック本当に便利ですね」

「ん、あぁそうだろ?」


 準備を終えた俺達は、早速ダンジョンからの脱出を始めた。


 マップを持ってるとは言え、食料の蓄えもいくらか処分することになったからな……。急ぐに越したことはないだろう。


「お、お二方とも……他人事だと思って」


 アーセナルの中に詰め込まれ、首だけ出しているシャルから非難の声が上がる。

 しかし、歩けない以上は仕方がないだろ?


「なんだ、入り心地が悪いか?」

「あ~いえ。中々に広く、快適……ってそうじゃなくてですね」


 彼女の乗りツッコミに、つい笑ってしまう。

 本当、行きの雰囲気とはまるで別人だ。

 これが“才”による偏見がない、彼女本来の姿なのかもしれないな。


「でもそれ、旗から見たら人攫ひとさらいいよね?」


 おい、物騒なことを言うな!

 サクラもシャルも、声を上げ笑い合う。


 このような戯れ本当であれば、魔物にこちらの位置を知らせるようなものだ。

 ただまぁ……死線を潜り抜けたばかりだ、今ぐらいは見なかったことにしようか。


 しばらく歩き階段を上ると、一層と二層を繋ぐ門に差し掛かった。


「完全に忘れてたわ……」


 サクラは、目の前の光景を見て愕然とした声をあげる。それもそうであろう……。


 来るときに通った鉄で出来た二枚扉が、まるで俺達の行方を遮るようにその場にそびえ立っていたのだった。








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