第26話 条件

「──うぅ~。何で私がこんな格好を……」


 サクラが茶で濡れた服を着替えさせるため、元嫁であるカンナは自身寝室に彼女を連れていった。

 そう、そこまでは変哲もない良くある話だろう。


 しかし、カンナと共に出てきたサクラは、なんと赤い生地に金色の花びらの舞う、花柄のチャイナドレスを着て現れた。


 可愛い衣装を作り、女の子に着せる。それが俺の元妻、カンナの趣味なのだ!


「ほぅ……また新作を作ったのか? 中々の出来じゃないか」

「あら、あなたの見る目も衰えてないわね? やっぱりモデルの子が可愛いと、衣装もえるわ」


 個人的には、それを着たサクラも素直に可愛いと思う。


 彼女の引き締まったボディーラインが強調されるこの服は、一ヶ所気になる事を除けばお世辞抜きに彼女に似合っていた。


「──くっ、似た者元夫婦ですか……まぁいいです。それよりもこの服、何やら悪意を感じますね」


 肩の布地を引っ張り、位置を直すサクラ。それを見た俺の違和感は、更に強いものへと変わる。


「あら、おかしいわね? あれだけ積めたのに……標準ぐらいで作ったはずよ?」


 なるほど、謎はすべて解けた──っじゃない! カンナも、それ以上は言ってやるな!? 流石のサクラも涙目だぞ!


「べ、別にまだ成長期ですし!? そんな事よりマサムネさん。趣味はともかくとして、何でこんな綺麗な人と結婚できて、その上で別れたんですか?」


 なんと!? サクラはこのタイミングで、鬱憤うっぷんを晴らすかの様に、その矛先を俺に向けてきたのだ!


「こ、答えにくいことを! 別に良いだろ、理由があって別れたんだ……詮索はしないでくれ」

「いえ、詮索というよりは驚いたので……。マサムネさん、そっちの方はからっきしかと」


 俺達のやり取りを聞き、腕を組んだカンナが全力で頷く。


「言いたいことは分かるわ、でもこの人……コレで何故かモテるのよ」


 サクラは疑いの眼差しで俺の顔を見ているようだ……。

 何故俺は、そんな風に言われ、そんな目で見られなければならないのだろうか?

 まったく、悪い流れだ。今は話を変えるが吉だろう。本題もまだだしな……?


「そ、そんな事よりカンナ……少し頼みたいことがあってだな?」

「……用件を聞こうかしら? あなたが久しぶりに顔を出す理由に、興味はあるわね」


 俺は、アーセナルの中から青い石を取り出し、カンナに見えるよう差し出した。


「これなんだが……すまないが君のアビリティーで、調べてほしいんだが?」


 カンナも俺と同じ“作る者”だ。

 しかし、彼女のアビリティーは俺とは全く異なる。


 そのアビリティーとは、類いまれなる洞察力である。

 彼女の見る力は凄まじく、その物の価値から情報まで見通すことが出来るのだ。


「これって──あなた、もしかしてまたダンジョンに!?」

「あ、あぁ……また生きているダンジョンに潜った。もしかしたら今後も……」


 こんな事を言えば、彼女にはまた心配をかけてしまう。

 しかし俺は知っている。君はそれを止めようとはしない……っと。

 ただただ、心配そうな顔で微笑むだけだと。そう──今のように。


「そう、またなのね? 実のところ、あなたが帰ってきて顔を見た時ね、そうじゃないのかな……って思ってたのよ」


 重い空気が流れる。俺もカンナもサクラも、誰一人と口を開こうとはしない。


 実のところ、俺達が離婚をするきっかけの一つに、ダンジョンの事が上げられていた。

 心配で、夜も眠れない日があると……。


 沈黙の中、口火を切ったのはカンナだった──。


「──でも、あなたはそうじゃないとダメね。恋するダンジョンに行けないと、また死んだ魚のような目をするもの」

「……カンナ、すまない」


 手で目を拭い、カンナは俺に今日一番の笑顔を向けた。

 そんな姿に、俺は何度胸を打たれたのだろうか? そんな彼女だから、俺は愛して……。


「うん分かった、鑑定だったわね?」

「い、いいのか!?」


 理由を説明したら、鑑定は断られるかとも思──いや、嘘だな。俺は心のどこかでは、彼女が断らないと分かった上で、こうして会いに来て……。


「ただ、ひとつ条件があるわ」

「条件……か?」


 流石にそれは想定外だ。条件というからには、金のやり取りだけでは済まないと言うことなのだろうか?


「……分かった、内容を聞こう。お手柔らかに頼む──」

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