第33話 迷子

「なぁレオナ。あの時の火傷……無事に完治はしたのか?」


 俺は五年前のあの時。

 大火傷を追い意識を失った彼女を、他の仲間と共に治療した。

 しかしその後、彼女が一命を取りとめたのを確認したその晩、パーティーの誰にも告げず……俺は逃げ出してしまったのだ。


「これの事かいな?」

「……っ!?」


 それだけ言うと、彼女は服の袖を捲り腕を見せる。

 なんとそこには、焼けただれた肌が顔を覗かせたのだ。


「酷い火傷痕! それ、ちゃんとした回復魔法を受けたんですか!?」


 シャルは彼女の手を取り、俺の治療そっちのけで火傷の後をまじまじと見た。

 それほどまでに彼女の火傷痕は酷く……見るのが耐えられないほどだった。

 

「あかんかったんや。この火傷はな、何故か完治することはあらへんかった」


 俺のアビリティーが彼女に一生消えることのない傷を負わせてしまった?

 やはり魔剣は危険すぎる……そんな俺が、ダンジョン攻略など許されるはずがない……。


 思い悩みながらもレオナを見ると、彼女と視線が交わる。


「……マサムネが気にすることあらへん。これはあの時、皆を助けることが出来た証や。誇りに思うことはあっても、あんさんを恨む事はあらへん!」

「レオナ、申し訳ない。ありがたいが、俺は自分を許すことは出来んよ……」


 俺は目を伏せながら彼女から視線を外した。

 罪悪感と自分へのなけなさで、レオナの顔が見れなくなったのだ。


 唇を噛みしめ、改めて彼女に謝罪しようと顔を上げたときだ──。


「も、もしそれでも気になるんなら、マサムネがウチを嫁に……」

「──ってどうしたサクラ!! 膝を着いて、何処か痛むのか!?」


 俺の視線の先では、両膝から崩れ落ち地面に両手を着くサクラが映った。

 さっきの小競り合いで、実は怪我をして──!


 どうやらそれは怪我とは少々違ったらしい。

 サクラ表情は、苦痛に顔を歪めるものではなく……何て言えばいいのだろうか? もっと複雑な感情が見て取れた。


「──だって私が憧れていたのって、つまり彼女なんですよね!? そう言う事なんですよね!!」


 そ、そう言えば、サクラはレオナに憧れを抱いていたんだったな? それが何故、膝を着くことに繋がるんだ?


「あ、あぁ……そう言うことになるかな?」


 彼女の憧れの相手であるレオナを見ると、すごい形相で睨みを効かせていた。


 ほ、ほら、サクラが変なことを言うから、睨んでるだろ!? って何故俺を睨む!?


「ごほん! 対峙して分かっただろ? 彼女の強さを……」

「──強さの話じゃありませんよ! 私の憧れはもっと美人で気高くて、例えるなら物語の騎士のような!!」


 あー……なるほど。ってサクラ!? 俺を掴んで揺するのは止めてくれ! 痛い、まだ痛むから!?

 

「──なぁマサムネ、やたら親しく見えるんやけど、まさか新しい女っちゅうわけやないやろうな?」

「おい、人を女癖の悪い男みたいに言うのは止めてもらおうか!」


 バギバキ指を鳴らすレオナに、俺は恐怖を感じた、そして必死に誤魔化す術を探すのだ──。


「──そ、それよりフラミーは一緒ではないのか? 姿が見えないようだけど」

「あぁフラミリアな? あの子ならギルドでヨハネをボコッった後、先行してここに向かったはずなんやけど……またいつものように迷子になってんやないか?」

「フラミーの奴……まだ方向音痴は治っていないのか?」


 不穏な単語が聞こえたが、今は聞かなかったことにしよう。

 そうか、彼女は迷……行方不明なのか。


「えっと、そのフラミリアさんって方は誰なのでしょうか?」

「そうだな、説明がまだだったか。俺が元所属していたレオナ率いるパーティーは、リーダーである彼女。“祈る者”のキルケー、“作る者”の俺、そして、もう一人の“祈る者”【フラミリア】の四名で構成されていたんだ」


 まぁ、厳密には四人と一匹だがな?


 説明聞いたシャルは、何やらサクラに大きな声で耳打ちを始めた。


「サクラ、頑張って! 良くわからないけど、ライバルは多そうよ?」

「シャ、シャルちゃん!? 何を言ってるのかな!?」


 本当……何を言ってるんだ?

 話している二人を見て、俺は一つ気がかりな事を思い出した。


「ところでレオナ、君はこの後どうするつもりなんだ。キルと一緒なのだろ?」


 未だパーティー健在なら、坊主は彼女のパーティーに居るはずだ……。

 それを知ったら、シャルは喜ぶはず……。


「──なに言うてんねん! マサムネがいいへんのに、ウチがアイツと一緒にいる訳無いやろ、身の危険を感じるわ!」

「そ、それではキルとはパーティーを解散したのか!?」


 想定外だ。

 そうか、おれのせいでパーティーは半解散状態に。

 “作る者”一人抜けようが代用が効くと軽く見ていたようだ……。


「それならもちろん、ロキって少年の事は知るはずも無いよな?」

「ロキって誰やねん、聞いたこともないわ」


 俺たちの会話を聞いていたのだろう。

 シャルは「そう……なんですか」と、肩を落としてしまった。


「あぁ~……なんかすまない。期待をさせて」

「いいんですよ、狭い世界です。生きてさえいれば、またかならず会えるはずですから」


 口ではそう言うものの、彼女の表情は明らかに曇っていた。

 知らなかったとは言え、悪い事をしてしまったな……。


「あ~少し脱線しててもうたな? ウチはこの後フラミリアの捜索に向かう気や。マサムネ、あんさんはどないするねん」

「そうだな、フラミーにもしっかりと謝罪したいしな、是非俺にも捜索を手伝わせて欲しい」


 俺はシャルの治療を受けた後、早速捜索活動に赴く事にしたのだった。

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