ガルデニアの残り香

最後のメモ

くしゃくしゃに握りつぶされた後、丁寧に伸ばされたメモが、写真立てに大事に入れられている。

『――もしも、の話として。

　もしも、満願（まんがん）の時となれば、きっと私は満たされた時に逝（い）くのだろう。

　では、満たしてくれた君は？

　理屈から言えば、私は君を遺（のこ）していく他ない。

　本当に、仮説が正しくて、もしも、私の願いが満たされたのならば。

　たとえ、この事を口にする事がなくとも、遥（はる）か古（いにしえ）の、あるギリシャの楽人（セイキロス）の墓碑銘の歌を贈りたい。

　――'Οσων ζηις φαινου, （君、生くる間は輝きて、）μηδεν 'ολως συ λυπου（僅かとて憂うことなかれ。）;

　　　προς ολιγον（その生くるは） εστι το ζην（刹那にして、）, το τελος（時の取り立てる） 'ο χρονος απαιτει.（その終わりに向かうものなれば。）』