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「具体的には?」

「……慣れたもんだね、本当に。幼子おさなご順応性じゅんのうせいを甘く見るんじゃなかったよ」


回りくどい。いつも以上に回りくどかったし、それはすべておにいちゃんの責任であって、私にはない。

私をあなどったおにいちゃんが悪いのだし、おにいちゃん自身もそう思っている。

そうわかってたから、私は黙っておにいちゃんの回答を待っていた。

おにいちゃんは、はぐらかせそうにないと見て取ると、ふう、とため息をついて口を開いた。


「死、だよ。僕のこれは、ちゃんと死ぬための旅だ」

「……退治されればいいじゃん」

今時いまどき時代錯誤じだいさくごにも程がある。それに、それ以外にも何かあるんじゃないかと思った上で、僕は僕なりに仮説を立ててやってきてるんだよ、みぃちゃん」


おにいちゃんは、そう言って薄く笑った。

いつもよりも力のない、おにいちゃんにしては弱々しい笑いだった。


「死ねないのは罪人だ。

 それなのに、僕に決定的な罪があったとはどうにも思えない。それが最初だ。もう、生前のことはほとんど忘れたけどね」

「……死刑って考えでいくなら、罪人は殺されるんじゃないの?」


ぼんやりと考えて、私はそう返した。

おにいちゃんは何度かまばたきをしてから、口を開いた。


「……みぃちゃんは、ジャック・オ・ランタンのお話を知ってるかい?」


何故なぜ唐突とうとつに季節はずれのハロウィンのカボチャが出てきたのか、その時はわからなかった。

だから、私は黙っておにいちゃんの言葉を待った。


「ジャック・オ・ランタン。ランタン持ちのジャック。悪賢わるがしこいこと、この上ない悪人さ。

 伝説では、ジャックは生前悪魔とけをして勝ち、死んでも地獄に入らないようにしてもらったが、それでもジャックは悪人だ。天国が彼を受け入れる事もなく、さりとて地獄には入れず。

それをあわれに思った悪魔の与えた燃えさしを、くり抜いたカブに入れて永劫えいごう彷徨さまようことになった。

 あるいは、あまりにもこっぴどく聖ペテロをだましたものだから、天国にも地獄にも入れないようにされた、とも言うね」


カボチャじゃないんだ。

そう真っ先に私は思った。

それは顔にも出ていたらしく、おにいちゃんは私を見てくすくすと笑った。


「アメリカへ移民した人達がカボチャを使い出して今日こんにちいたるのが、日本で一般的に知られてるジャック・オ・ランタンだよ。元はカブだ。

 そして同じような話はウィル・オ・ウィスプ、松明たいまつ持ちのウィルにもある。

 どちらも、日本でいう鬼火おにび人魂ひとだまのような空中に燃える火の玉、怪火かいかとして認識されるね」

「おにいちゃんのお仲間?」


かさり、とひざの上の山からカップケーキの袋をつまみ上げたおにいちゃんにそうくと、おにいちゃんは苦笑した。

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