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「まさか。会ったことないし。そもそも彼らは火の玉としか認識されない。

 本当に実体があるのか、意思があるのかすら怪しいさ。

 それならまだ、ワイルドハントに行きう可能性の方が高いし、なんなら彷徨さまよえるユダヤ人を探すのが一番確実だ」

「なんか一個掘るたびに、他にも芋が出てくるみたいな感じになってるんだけど」


回りくどく、なんだそれはの芋づるだ、とくと、おにいちゃんはカップケーキの袋を開けながら口を開いた。


「ワイルドハントは永遠の狩猟団。悪魔の狩猟団とも言われるね。

 地域によってひきいるとされるモノは人間からオーディンまで幅広はばひろれがあるけど、人間の場合は大概たいがい狩猟にきょうじ過ぎて、神をも愚弄ぐろうした結果、永遠の狩猟にとらわれた罪人だ。

 人が行きえば死ぬとも言われる。日本にも似たような妖怪がいたんじゃなかったかな」


局地的災害みたいなもんだよ。

そうおにいちゃんは言って、こんがりとほどよく焼けている美味おいしそうなカップケーキを取り出した。


「あと彷徨さまよえるユダヤ人ね。これはキリストをののしったとか叩いたとか、まあ辛く当たったその罪がゆえに、死ぬ事を許されずに最後の審判まで生かされているという、とあるユダヤ人だ。

 日本だと八百比丘尼やおびくにが一番近いのかな。

 ただ、百歳にまでなると、またキリストをののしったその時分じぶんまで戻るとも言うから、不老ではない分、実に実に嫌らしい。

 タンタロスのめもかくやと言ったところかな」


きぃ、とアルミのこすれる耳障みみざわりな音をかすかに立てながら、カップケーキのアルミカップをいたおにいちゃんは、それをきれいに二つに割って、開きかけた私の口にひとかけ放り込んだ。


「むぐ」

「タンタロスはギリシャ神話に出てくる王だ。

 彼は最高神ゼウスと仲が良く、神々の口にする不死なる飲食物アムブロシアやネクタルを、同じように口にする権利を得ていた。

 けれども、タンタロスはその神々の食べ物・飲み物をくすねて他の人間に振る舞い、ては神々をもてなためうたげで自らの息子を調理させた。

 それらによって神々から怒りを買ったタンタロスは、ギリシャ神話における地獄、まさしく地のひとやと呼ぶに相応ふさわしいタルタロスに繋がれた」


私が突然放り込まれたケーキを飲み込もうと、もごもご咀嚼そしゃくしている間に、おにいちゃんは私が引っかかった点を説明しだしている。

ちなみにカップケーキは美味おいしかった。


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