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だが、そもそも、だ。


「おにいちゃんがイケメンなのが悪い」

「はあ……」


可愛かわいくラッピングされたクッキーをつまみ上げてながめるおにいちゃんに、私はそう言った。

おにいちゃんは困惑した表情でこちらを見上げている。


「おにいちゃん、暗示でどうこうしてるって言うなら、もうちょっとブサイクだと思わせればいいのに」

「何言ってるんだい、みぃちゃん。そのコストとリターンを考えたら、リターンの方がまさるんだよ」


メタリックピンクのビニタイをねじねじとほどきながら、おにいちゃんはそう言った。


「色の白いは七難しちなんかくすって言うだろ。そういうことだよ」

「そっかあ、おにいちゃんは七よりも多く難があるのかあ」

「……みぃちゃんも言うようになったねえ」


おそらくは百均のものだろう可愛い花柄はながらのビニール袋の口を開けながら、しみじみとした口調でおにいちゃんは言った。

本性を現してからのおにいちゃんの話に付き合ってれば、いやでもこうなるってものだ、と私は思った。


「この兄にしてこの妹ありってやつよ」

「わあ、全然否定できないぞ」


一応、本人にも自覚はあったらしかった。

おにいちゃんは取り出したクッキーを口にほうり込んで、わざとらしく眉間みけんしわを寄せた。


「うーん、おかしいなあ。みぃちゃんをそんなにする気はなかったんだけど」

「光源氏にしろ、ハンバート教授にしろ、そんな気があっても困るよ」


そもそも、その時点で、私はおにいちゃんがどうして私達家族の中に闖入ちんにゅうしてきたのか、その目的を少しも知らなかった。

ただの、おにいちゃんの正体を知っているだけの共犯者でしかなかった。


「おにいちゃん」

「ん?」


二つ目のクッキーを口に入れてごりごりと咀嚼そしゃくしながら、おにいちゃんは首をかしげた。

音からして、焼きすぎたクッキーらしかった。

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