ガルデニアの残り香

板久咲絢芽

薔薇の下を掘り返す独白

独白の切り出し

おにいちゃんの話をしようと思う。

きっとこのままでは、私は袋小路ふくろこうじにいるままだから。

この思い出がまだ――すで色褪いろあせてるにせよ――鮮やかなうちに、墓碑ぼひのように何処かに刻み込まなければ。


おにいちゃんは何でもないように「忘れていいよ」なんて言いやがっていたが、絶対に忘れてなどやるものか。

それが私のことを心配したのだとしても、忘れてなどやるものか。

「見るなの禁忌タブー」のような事態をねらったのではないということだけは、信じてるけど。


そもそも「おにいちゃん」なんて呼んでいても、おにいちゃんと私は、本来赤の他人だ。

再婚とか連れ子とか養子とか、そんなワードは一切関係ない。


というか、あれは身もふたもなく言えば、「闖入者ちんにゅうしゃ」だ。


なんのことわりもなく、私達家族の、父さんと母さんと私の中に入り込んで、それらしい役割を自身にてがい、それをまわりの誰しもの脳に焼きつけた。

本人は暗示だと言っていた。き方は個人差があって、私のようにけるのが早い場合もある、とも。


私達家族の誰にも似ていない――そりゃそうだ――綺麗な人形のような顔で、声をあらげることなどなく、おだやかにひかえめに、不自然ではない程度に家族の会話に混じっていた。

水よりもほんの少しとろみがあるような、心地いい声で「みぃちゃん」と私を呼んでいた。

私と一緒にテレビゲームに興じたり、馬鹿みたいな話の相手をしてくれたりもした。

闖入者ちんにゅうしゃであっても、おにいちゃんがいなければいわゆる鍵っ子だった私にとっては、ちゃんとした家族の一人だ。



さいごまでそれを、はっきりとは言えなかったとしても。

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