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それが意味するところを理論だとかそんなものはすっ飛ばして、感覚的に即座に理解した私は、なんでそうしたかは今となってもわからないがきっとたぶん反射的に、目の前の人の枠を超えた美貌びぼうに頭突きをしていた。


「ぬおっ」


変な声をげたおにいちゃんはコントローラーを落とし、顔をおさえてうつむく。

さらさらとその長い黒髪が肩からすべり落ちた。

一方の私は私で、それなりに痛くはあったけども、結局のところ頭の中の混乱は収まるところを知らず、それでもおにいちゃんが何かするとは思えなかったから、痛がるおにいちゃんを、ただ少し痛みで冷えた頭で見ていた。

だって何かする気なら、一緒にゲームになんてきょうじやしないし、ましてこれまでにも何度も二人きりだったはずなのだから、機会は山ほどあったはずだと、その時に私は思ったのだ。


「いてて……みぃちゃん、頭固いなあ」

「おにいちゃん、どういうこと?」


しみじみと言うおにいちゃんに、私はそういた。

おにいちゃんはそれまでの柔らかかった表情をすっと消した。


随分ずいぶんと度胸があるな、さすがみぃちゃんだ」


目を細めておにいちゃんはそう言った。

今思えば、あれはどちらかというと、九つの命持つ猫をも殺すという好奇心に支配された目だった。研究者のような目だった。


「だって、おにいちゃんと二人きりなんていまさらでしょ?

 だったらゲームなんてできないし」


おにいちゃんは私の言葉を目を細めたまま聞いて、そしてにいっと口角を上げた。


「いいね。いいね、みぃちゃん。

 頭が良い子、僕は好きだ」


あざけるというには毒気なく、微笑ほほえみかけるというにはあまりにひとがりな表情だった。


「だから、いいことを教えてあげよう、みぃちゃん」


さすがに、おにいちゃんのまとう空気が怖いものだと気付いた私に、おにいちゃんは続けた。

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