綻び

みぃちゃんは賢い。


れは幼子おさなごゆえ順応性じゅんのうせいの高さからなのか、れとも彼女自身が持って生まれた天性の資質か。

端的に言えば、理解とその吸収にすぐれていた。

の上、会話をする内にどんどんの満足がいくキャッチボールをしてくれるようになった。

まあ、れは単純にの振る舞いを吸収しただけだろう。


そも、まで、みぃちゃんの兄として最低限馴染なじめるだけの、が演じるため仮面ペルソナ、役柄、あるいは仮想人格と言った所である。

偏屈へんくつを意識的にやわらげた所で、演じるのに無理が無い様、基盤ベース自身だ。

みぃちゃんとの会話に対する満足が、みぃちゃんの会得えとくした由来のコミュニケーション能力や知識から来る心理学上の類似性の法則から来る物なのか、単に存外ぞんがい人恋しかっただけなのかは、自分の事ながわから無い。


「構造の内から構造の全体像を理解する事は叶わ無い。何故なぜなら、完全なる全体像とは鳥瞰ちょうかんにしろ遠景えんけいにしろ、外からの視点で得られる物であるから」という考えにそくすならば、自身を理解するなど、当然出来るはずも無いので、正常と言えば正常なのだが。


そんな賢いみぃちゃんは、時としてに同情的であり、時として理解者であると同時に、無理解と言うよりは無神経で、いやに鋭い所があった。

まあ、云百年うんびゃくねん――千では無いと思いたい。思いたい――彷徨さまよって居たの精神性に人が追い着くなんて事は不可能であるし、みぃちゃんの主観をが分から無いのと同様に、みぃちゃんがの主観を分かるはずも無かったのだが。


例えば、主観と客観と思い込みとかたりの話をした時。

みぃちゃんが今まで数多あまたの嘘をいてきたを責めるでもなく、


「……ずっとバレないように嘘つくのって、大変じゃない?」


と、あわれみよりも随分ずいぶん手前のねぎらいを乗せて問うて来た時。


の時、は、何を知った様な口をという腹立たしさと同時に、何かが胸の奥底できしむような感情を覚えた。

そして、の腹立たしさのみを、として相応ふさわしく無い感情だとして、排除した。


残滓ざんしきしんだ物が何かは、分から無かった。

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