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「みぃちゃん。みぃちゃんが僕の仮説の実証の重要な要因ファクターであることは間違いない。それは認めよう」

「……」


私はおにいちゃんをにらみつけながら、ほかほかのココアをすすった。


「だから、正直、知られると逆に困る」

「……知れば協力できるかもしんないじゃん」

「意図的にそうされたくないからだよ」


今思えば、それはつまりそういうことだったのだ。

――おにいちゃんは、あわれみを向けられたり、同情されるのは嫌だったのだ。

それに、意図的どうこうという話でもなかったのだと、今の私は知っている。


「おにいちゃん」

「言わない」


どれだけ目でうったえても、おにいちゃんは梃子てこでも動かない姿勢だった。


「……アーリオましましペペロンチーノ作ってやる」

「……みぃちゃん、僕と暮らしててニンニクは迷信って知ってるでしょ」


おにいちゃんが冷静に突っ込んできた。

私の目の前で、さんざっぱらニンニク使った料理をしたり、食べたりを普通にしていたのだから、事実として自称吸血鬼のおにいちゃんにはニンニクは効かなかった。

それでも気持ち的な部分で、鬱憤うっぷんを晴らすためだけの言葉だった。


「知ってますー、腹いせですー」

「というか、みぃちゃん、ニンニクで割とお腹くだす方でしょ……」


あきれたツッコミをココアをすすりながら受け止める。


「……みぃちゃん、不貞腐ふてくされないでよ」

「……」

「…………いや、原因は僕だって言うのは確かだよ。だから、その目をやめてよ」


じっとりにらみつけているとおにいちゃんは文庫本を持ったまま、降参と言わんばかりに両手を上げるジェスチャーをしてきた。

そのおにいちゃんの向かいに座って、私はココアをすする。


「……納得いかないなあ。なんでおにいちゃんにニンニク効かないんだろ」

「そこはそれ、迷信ですので」

「吸血鬼は迷信じゃないのに?」


痛いとこだけど現実なんだなあ、とおにいちゃんは言った。


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