7

 二人は起き上がると、ベッドの上に座って顔をつき合わせた。


 エリザベスが半分ほど読んだ「青騎士物語」には栞をして、ベッドのサイドボードにおき、彼女たちはその本の間から飛び出してきた、二つ折りにされている古い紙をベッドの上に広げた。


 エリザベスは邸の隠し部屋の地図のような心を躍らせる何かが飛び出してくるのではないかと、うきうきしたが、広げた紙を見て首をひねった。


 そこには隠し部屋の地図のような面白いものではなく、線を引いて作られた星の形が描かれていた。まるで子供の落書きのようにも見える。


 しかしレオナードは、その紙を見るなり興味深そうに頷いた。


「なるほど、こういう意味だったのか」


「なにが?」


 彼の目には、この落書きのような星の記しがどのように映っているのだろう。エリザベスは気になって、レオナードの瞳を覗き込んだ。


「ねえ、何がどんな意味なの?」


 レオナードはあと少しで頬が触れそうなほど近くに寄せられたエリザベスの顔を見て、ほんのりと目尻を染めた。


「あ、ああ……。ほら、君が嫌そうにした図書室の壁の額縁を覚えている?」


「ええ、あの気味の悪いカードでしょ」


「そう。あのカードの意味。見て、この紙の星のところに、それぞれ変な文字が書かれているのが見えるでしょ?」


「これ、文字なの? 子供の落書きかと思ったわ」


 エリザベスは星のそれぞれ頂点に、落書きのような記号のような意味の分からない字が一つずつ書かれているのを目で追った。


 くにゃくにゃとミミズが這ったような不思議な文字は、一つずつ違う形をしていた。


「これは古代ラグナ文字なんだ」


「古代ラグナ文字?」


「昔――、それこそ千年近く前になるかな? このあたり一帯に栄えた文明とでも言うのかな、それが古代ラグナ帝国。この文字はその古代ラグナ帝国で使われていた文字だよ」


 エリザベスはびっくりした。どうしてレオナードはそんな古い文字を知っているのだろう。すると、エリザベスの表情から言いたいことを読み取ったらしい彼は笑って答えた。


「実は、学生時代に先行していたのが古代ラグナ文学だったんだ。だから簡単な文字なら読めるんだよ」


「へえ……、あんたって意外とすごいのね」


 エリザベスが感心したように言うと、レオナードは目を丸くして頬をかいた。


「ま、まあね……。見直した?」


「うん。した」


 エリザベスが素直に頷くと、レオナードは顔を真っ赤にした。


 だが、紙に夢中でレオナードの表情に気づいていないエリザベスは、じっと紙を見つめたまま急かした。


「それで、この文字は何なの?」


「ああ、それはね。まず星の上。これはベルヴァと読むんだけど、これは『堕落』という意味。次に星の右の文字はダリヴァ、これは『堕胎』。左はウルガで『快楽』。次に右下はジーニャで『傲慢』。最後左下はセスタで――、これは場合によっては意味が変わるんだが、『王』や『王族』または『権力』となる」


 エリザベスは頷いた後で、こてっと首を傾げた。


「でも、これなんなのかしら? 何かの暗号?」


「さて、さすがにこれが何を指すのかは、俺にもわからないな」


 レオナードは答えて、まだ幼い子供のように紙に夢中になっているエリザベスの頭を、ぽんぽんと撫でた。

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