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 午後、エリザベスはレオナードとともに、二階のオリバーの部屋の近くにある図書室を訪れていた。


 オリバーによると、この図書室は彼がこの邸を買い取った時からあるらしく、前の持ち主の蔵書だろうと思われる古い本がたくさんあるそうだが、彼はまったく興味がなく、鍵をかけたままにしていたそうだ。


 エリザベスが退屈しているだろうと気をきかせて、オリバーは好きに出入りしていいよとレオナードに鍵を預けてくれたのである。


 図書室に入ると、壁一面に背の高い本棚がおかれて、それらにはどこの隙間もないほどびっしりと本が詰まっていた。


 そして、裏庭に面した窓と窓の間の壁に一枚、絵のようなものがかけられていた。それはよく見ると絵ではなく額縁に入った古いカードだった。線で描かれた星のそれぞれ頂点に一枚ずつ、五枚のカードが貼られている。それぞれの絵柄は違うが、どれも悪魔のように不気味な表情をした人や動物だった。


「なんだか、悪趣味ね」


 そのカードに描かれた絵を見つめていると、背筋にぞくぞくと嫌な悪寒が走ってくる。


 エリザベスはカードを無視して、何か面白いものはないかと本棚を物色した。修道院で文字を習ったから、読み書きはできるのだ。


「君はどんな本を読むの?」


 レオナードに訊ねられて、エリザベスは修道院時代に読んだいくつかの本をあげてみた。童話や、推理小説、それから友達の間で流行った恋愛小説など。それぞれの実家からの仕送りを許されていたので、こういった本は自由に――内容にもよるが――手に入れることができた。


 娯楽の少なかった修道院の中で、唯一と言ってもいい娯楽が本だったのだ。


「ふぅん。君が恋愛小説に興味を示すのは意外だったな」


「失礼ね!」


 これでも一般的な女の子と同じように、恋することに夢を見ている。現実に飛び込んできたのが目の前の厭味な貴族のお坊ちゃんだったから、対象外なだけだ。エリザベスにだって、誰かを好きになってその人と結婚したいという願望があるのだ。


 レオナードは笑って、


「それなら、このあたりなんかは好きじゃないかな。古い本だけど」


「どれ?」


 レオナードに差し出された本は確かに古かったが、表紙に「青騎士物語」と書かれているのは読み取れた。


「比較的詠みやすい本だと思うよ。名前は仰々しいけど、昔――、それこそ君のおじいさんが若かったころくらいに流行った純愛小説だ。俺の家の書庫にもあったな」


「へえ!」


 エリザベスは興味を惹かれて、ぱらぱらとページをめくった。変色しているが虫食いはなく、問題なく読めそうだ。


 レオナードはエリザベスの手元を覗き込んだ。


「確か物語は、王女様が自分を守る騎士に恋をするところからはじまって――」


「ちょっと、ばらさないでよ!」


 エリザベスはぷうっと頬を膨らませて、本を持っていない方の手で片耳を塞ぐような仕草をした。


 レオナードは意地悪く笑って、塞がれていない耳に口を寄せた。


「その騎士はいつも青いマントをつけていたから、青騎士と――」


「わあ――――!」


 エリザベスはレオナードの声にかぶせるように大声をあげた。


 レオナードは声を出して笑いながら、「悪かった」と謝った。


「もう言わないよ。続きは読んでのお楽しみだ。どう? 読んでみたくなっただろう?」


 エリザベスはむきになって大声をあげたことを恥ずかしく思いながら、つんと顎をそらして強がった。


「どうかしらね!」


 そんなエリザベスの様子に、レオナードはまた笑ったのだった。

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